五島カトリック集落における自然資源利用の空間特性と生存戦略

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タイトル別名
  • Spatial characteristics of local natural resources use and survival strategies in a Catholic village in Goto Islands, Japan
  • Comparison with an adjacent Buddhist village
  • 隣接する仏教徒集落との比較を通じて

抄録

<p>1. 背景と目的</p><p> 長崎県五島列島とその周辺には,潜伏キリシタンの歴史・文化が関与することによって,日本本土や世界各地の農山漁村とは異なる特徴的な生活様式と文化多様性が存在している(UNESCO 2018).しかし,従来のキリシタン史は迫害史・民俗史の色彩が強く,宗教と入植時期の異なる集落間での立地環境とアクセス可能な地域自然資源の違い,以上の結果としての文化景観や地域社会経済の差異等は扱われてこなかった.そのため,当該地域の文化景観が多面的に解き明かされてきたとはいえない.本研究では以上の点に着目し,当該地域において20世紀に成立した文化景観の成立メカニズムを明らかにする.</p><p></p><p>2. 対象地域と研究方法</p><p> 対象地域は長崎県五島市岐宿町である.福江島北部に位置し,五島市中心部から約13kmの距離にある.同町は岐宿,山内,川原,楠原等の各地区に分けられ,本研究ではとくに岐宿地区に焦点を当てる.地区には町の中心市街を構成する仏教徒集落と,そこから数km西に位置するカトリック集落がある.いずれも東シナ海に面する.カトリック集落の起源は1798年の大村藩領からの開拓移民である.</p><p> 研究方法は,GISを用いて集落の分布,土地利用変化と,地形環境,災害リスクの関係を分析したうえで,2022年9月と2023年6月に現地を訪問し,土地の踏査と,カトリック集落5世帯,仏教集落3世帯,カトリック集落内の修道院の修道女3名に対する聞取り調査を行った.主な内容は集落の開発史,過去の土地利用,生活実態,生業,集落の領域等である.</p><p></p><p>3. 集落立地の特徴と自然資源利用</p><p> カトリック集落は急斜面や海岸付近に家屋を密集させて分布し,その多くが土砂災害警戒区域に位置している.一方,仏教集落は溶岩台地上の比較的平坦な土地に市街地を形成している.この背景として,両集落の領域面積に差があり,カトリック集落では入植時からすでに生活できる土地が限られていたことが挙げられる.本研究の調査によって,カトリック集落では限られた土地を広げるべく,明治期以降も斜面を新たに開拓していたことが明らかになった.</p><p> 畑作物の種類(サツマイモ,オオムギ,ダイズ)や薪炭材利用の必要性については集落間で大差がなかったが,水田の有無,ウシの頭数,子ウシの販売先,漁業の程度,薪炭材の入手ルートには大きな違いがあった.カトリック集落の特徴は水田分布が限られ,ウシの頭数が少なく,各家庭が漁業権の影響のない範囲で狩猟採集を行い,その船を用いて湾の対岸の奥地へ薪炭材や草を採集に行っていたことである.対する仏教集落は本来のムラの領域の外にも入会林を有し,河川を利用しより容易に薪炭材を運搬できた.水田の有無はウシのエサとなる稲ワラ獲得に直接影響しており,仏教徒集落の住民が比較的簡単に獲得できた一方で,カトリック集落では小作を通じて稲ワラを獲得するか,船で採集に行くかの選択を迫られていた.結果としてカトリック集落では現金を獲得する手段が限られ,このことが前近代から1950年代頃までのキリシタン-カトリック集落の相対的貧困と差別の一要因になっていたと考えられる.</p><p> 本研究によって,隣接する集落間での自然環境との関わりの差異が,同地区内の文化景観の多様性をもたらしており,かつ現在の災害リスクの地域性についても文化景観の成立メカニズムと連続性を有することが示された.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390297603758366848
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_155
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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