公的統計とオープンデータを利用したネットワーク分析の有用性と課題の検討 - 病児保育施設へのアクセシビリティ解析を事例に -

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タイトル別名
  • The application possibility of network analysis with public statistics and open data - Case of accessibility analysis on nurseries for sick children -

抄録

<p>1.緒言</p><p> 本研究の目的は,病児保育施設へのアクセシビリティ解析を事例に,公的統計とオープンデータを活用したネットワーク分析の有用性と課題について検討することである.既存研究においてオープンデータを活用したネットワーク分析として,増山(2017,2021)がある.増山(2017)では,大規模データ処理を伴う広域分析の難しさを指摘している.そこで,冨田・佐藤(2022)はOSRM(Open Source Routing Machine)を利用した大規模データ処理が可能な分析法を提案した.増山(2021)は,冨田・佐藤(2022)が行ったようなOSRMの活用可能性について言及した.また,病児保育施設へのアクセシビリティを評価した先行研究では,Ehara(2017)や池内・冨田(2021)などがある.Ehara(2017)は,直線距離で評価したため,実際の移動経路と乖離がある.池内・冨田(2021)は道路距離で評価したが,町丁・字の領域が広いと誤差が大きくなることが課題である.そのため,建物レベルでの分析が求められる.そこで本研究では,建物レベルでの病児保育施設へのアクセシビリティ解析を行い,後述する大量のデータ処理と広域分析も可能な池内・冨田(2021)の手法を用いて町丁・字レベル,建物レベルで定量的に評価した結果と,分析結果から明らかになった課題について概説し,これらの課題の解決策を提案する.</p><p></p><p>2.資料と方法</p><p> 本研究では,池内・冨田(2021)で用いた病児保育施設(ポイント)と居住区(ポイント),道路網(ライン)に加えて,建築物の外周線(ポリゴン)を利用した.病児保育施設は,全国病児保育協議会ウェブサイトより取得した住所をジオコーディングし位置座標データを取得した.居住区はe-Statより取得した2020年国勢調査小地域(町丁・字等)のポリゴンの重心を位置座標のポイントデータとした.道路網はOpenStreetMapからRoadタグのあるラインデータを抽出して利用した.また,建築物の外周線は,国土地理院が提供する基盤地図情報データを利用した.本研究では,池内・冨田(2021)と同様にOSRMを用いた経路探索システムを構築し, 建築物の重心座標を始点として病児保育施設までのアクセシビリティ解析を行う.</p><p></p><p>3.結果と考察</p><p> 本研究と先行研究で得られた移動経路の道路距離の差が,どのような場合に大きく(または,小さく)なるかについて検証を行った.まず,先行研究における居住区の境界領域の重心座標からの道路距離(以下,境界距離),本研究における道路距離との差(以下,距離差)の分布について検証を行った.その結果,境界距離が小さい場合は距離差も小さく,境界距離が大きくなるにつれて距離差も増加し,その後一定の範囲内で分布することがわかった.建物レベルの分析により,町丁・字の領域が広い地域でも誤差を軽減することができた.ただし,他と傾向が大きく異なり,比較的小さい境界距離に対して大きな距離差を示す事例が確認された.これらの事例について移動経路を可視化し確認したところ,事例①「境界重心を始点にするとマツダ工場内の私道が最寄り道路になった事例」,事例②「境界をまたぐ建物で,重心が隣接領域に属すると,建物重心と境界領域の距離差が大きくなる事例」,事例③「境界重心が海上になり最寄り道路が反対方向へ向かうバイパスであったことから建物重心と境界領域の距離差が負値で大きくなった事例」の3パターンが認められた.いずれも境界重心を始点にしたことに起因する事例であり,本研究で採用した建物重心の利用により解決できることが確認された. 本研究の方法は,大量なデータ処理が求められる全国レベルの大規模データの分析も可能であり,かつ,より精度の高いネットワーク分析ができることが確認された.また,オープンデータを活用したことで,低コストで分析が実行できることも有用である.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390297603758401536
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_45
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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