縦断方向の河川の連結性と河川横断工作物

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  • Longitudinal river connectivity and artificial crossing structures

抄録

<p>はじめに</p><p> 河川はもともと自由な流れを持つが,人為的影響でそれが阻害されるようになり,その結果として,水や土砂,有機物,生物の縦断方向,横断方向,垂直方向の連結性(connectivity)(Fryirs, 2013)が低下してきている.こうしたなか,近年,河川の連結性を定量化する研究が進められている.たとえば,世界の河川を対象とした研究では,流路長が1000 kmを超えている河川のうち自由に流れている(free-flowing river)ものは37%程度で,その分布は北極域やアマゾン,コンゴ川流域といった遠隔域に限られることが指摘されている(Grill et al., 2019).また,ヨーロッパの河川では,堰に代表されるバリアーが少なくとも120万個(流路長1 kmあたり0.74個)存在しており,そのうちの68%が高さ2 m未満であることが報告されている(Belletti et al. 2020).</p><p> 本研究では,日本の一級水系の本流109本を対象として,縦断方向の連結性に影響を与える,もしくは影響を与える可能性がある構造物がどの程度分布しているかを計測することにした.河川の縦断方向の連結性に影響を与える構造物としては,ダムや堰,水門が知られているが,本研究では河川を横断する橋や送電線についても連結性に影響を与える可能性がある構造物として計数することにした.</p><p></p><p>方法</p><p> 全国の一級水系(109河川)の本流を対象に,以下の手順で河川を横断する構造物を手動で計数した.はじめに,堀ほか(2023)で作成した河川中心線のラインデータを地理院地図に読み込んだ.次に,地理院地図のzoom17または18で表示される橋(道路含む),鉄橋,送電線,堰,ダム,水門,水制といった構造物と河川中心線との交点を,河口から源流に向かって取得していき,それぞれの構造物の数を集計した.また,交点の位置をkml形式で保存した.</p><p></p><p>結果と考察</p><p> 河川を横断する構造物のうち最も多いものは,橋(道路含む)で7376,次いで堰2626,送電線2051,鉄橋670となった.構造物の総数は約13000個で,河川中心線の長さ(以下,流路長とする)の総計約11614 kmを考慮すると,1 kmあたり1.12個となる.なお,構造物の数は計数の際の誤認・見落としや地図の更新などがあるため,概数と考えるべきものである.</p><p> 河川間で比較すると,流路長が長い河川のほうが流路長の短い河川に比べて,構造物の数は多くなる傾向にある.一方,構造物の数/流路長としたときには,流路長140 km程度までは流路長当たりの構造物の数は減少していく傾向にあるが,140 km以上になると1 km当たり0.4–1.2個の範囲に収まり,流路長の増加による影響は不明瞭になる(図1).一般的に,流路長の短い河川のほうが流路長の長い河川に比べて川幅が小さいため,横断物の設置が比較的容易であるためと考えられる.</p><p> 北海道や東北地方を流下する河川は,1 km当たりの構造物の数が1以下となっているものが多い.一方,鶴見川や菊川,大和川,本明川といった流路長が比較的短い河川においては,1 km当たりの構造物の数が3を超えている.また,土砂の縦断方向の連結性に強く影響すると考えられる構造物(堰やダム,水門)は,姫川,手取川,重信川,本明川で1 個/km以上となっているが,これには堰の数が強く反映されている.</p><p></p><p>謝辞 本研究は科研費(課題番号:21K18397)の助成を受けたものである.</p><p></p><p>文献 Fryirs, 2013, Earth Surf. Proc. Land., 38, 30–46. Grill et al., 2019, Nature, 569, 215–221. Belletti et al. 2020, Nature, 588, 436–441. 堀ほか,2023,2023年度日本地理学会春季学術大会,P041.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390297603758404224
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_72
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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