「地理総合」における地図とGISを扱う授業と評価の進め方
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- 田中 隆志
- 群馬県立藤岡中央高等学校
書誌事項
- タイトル別名
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- Classes dealing with maps and GIS in“Chiri-sogo (Geography)”and how to proceed with evaluation
説明
<p>1.導入年度の「地理総合」地図/GIS教育の実態と課題</p><p> 本稿では,アンケートにもとづく導入年度の「地理総合」地図/GIS教育の実態と課題,授業と評価の実践事例を報告する。 令和4年度に新設された「地理総合」地図/GIS教育について,報告者は令和4年度7月から9月初旬にかけて,第25期日本学術会議地理教育分科会地図/GIS教育小委員会の協力のもとで,インターネットによるアンケート調査「『地理総合』中間まとめにかかわる調査」を行った。そこでは,「地理総合」を通して生徒に地図やGISの有用性に気付かせることができたとする授業者も多かった半面,様々な課題も示されていた。</p><p> 科目担当者の構成では,地理専門の約6割に対して,世界史を中心とした専門外が残りの4割を占め,専門性の高い地図/GIS教育を担保する上での対応が必要となる実態が示された。1学期中の履修が想定される「導入単元」の進捗では,1学期中に終了したとの回答が約7割を占めたが,多くが進度の遅れや計画的に進められなかったことを課題としていた。授業の充実に有用なアクティブラーニング,紙ベースを中心とした作図演習や,地理院地図を含むWeb地図の活用には多くの授業者が取り組んでいたが,それらが不実施という者も一定数いた。新学習指導要領が汎用性のあるツールとして取り上げている地理院地図については大半の授業者が扱っていたが,その半数以上が計測,色別標高図など平易な技能を幾つか扱うのみで,陰影起伏図,地形分類など,後半単元の「生活圏の諸課題や防災」でも有用となる技能の演習を行っていなかった。さらに「地理総合」新設と同時に導入された3観点での評価では,多くの授業者が工夫して取り組んでいたものの,評価とその総括の方法,評価に対応した定期考査の作問に,不安や混乱を抱える者が多かった。</p><p>2.組織的な支援と授業者の努力</p><p> 課題の克服には,組織的な支援も必要である。とくに専門外が多い授業担当者への対応では,都道府県の地理部会や教職課程を設置する大学が,「地理総合」を担当する可能のある教員と学生に「地理院地図やウェブ地図の指導」ができる支援体制を整備していく必要がある。また3観点での評価に不安を抱える授業者が多いことには,都道府県や地理部会などが,評価,作問の研修を実施するなどの対応が望まれる。</p><p> 授業者自身にも努力は必要である。授業を計画どおりに進めるには,指導内容の焦点化が必須である。授業の充実のために,アクティブラーニング,作図演習,地理院地図やWeb地図の活用などの研修と実践を重ね,また評価とその総括の具体的な方法を計画していく必要もある。</p><p>3.紙地図とWeb地図の併用</p><p> アンケートでは,紙地図だけで地図/GIS学習を進める授業者がいる実態も示されていた。確かに紙地図は,レイヤーの一瞬の切り替えで消える地図画像を,丁寧に読図,考察させるのに有用である。とくに「地理総合」では初めて地理/GIS を学習する者も多く,基本的な読図や作図のトレーニングで,紙地図を活用する意義は大きい。しかし「将来の持続可能な社会の建設に使えるツールとしてGISを使おう」との意識を生徒に育てるにはやはり,実際にGISに触れさせる必要がある。そのため報告者は,紙地図と,GIS初心者の生徒でも比較的操作が容易なWeb 地図を併用して授業を計画している。</p><p>4.地理院地図で扱う基本技能の焦点化</p><p> アンケートでは,地理院地図で扱う技能を焦点化していない授業者が多い実態も示されていた。地理院地図は多機能のため,限られた時間で網羅的に様々な技能を扱うことはできない。ただ,後半単元の「生活圏の諸課題や防災」でも使える基本技能は,導入単元で扱うのが理想である。そのため報告者は,意識的に7つの基本技能に焦点化した演習を行っている</p><p>5.地図とGIS の学習活動での指導と評価の一体化</p><p> 本来,3観点での評価は,それぞれをバランスよく総括するものである。ただ地図/GISの学習では,「知識・技能」の比重を大きくするべきとの誤解から,混乱も起こりやすい。しかし地図/GISは,もともと3観点に関わる力のすべてを生徒から引き出すために,科目の軸に想定されたものである。そのため報告者も,3観点についてあらかじめ具体的な指導内容と評価方法を一体的に計画して,評価,総括した。また新学習指導要領での評価の最終的な目標は,3観点の力を育てることにある。そのため報告者は,評定をつける形での「総括的評価」だけでなく,学習活動の途中で,生徒の提出物をみたり机間巡視したりして生徒の到達度をみとる「形成的評価」をして,柔軟に助言,指導内容の変更をすることにも努めた。</p><p></p><p>参考文献</p><p>高等学校学習指導要領(平成30 年告示)解説</p><p>【付記】本報告は日本学術会議 地理教育分科会 地図/GIS教育小委員会で検討した内容である。</p>
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2023a (0), 88-, 2023
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