<研究論文>南へ追われて、南でふれあいを求めて : 林芙美子の南洋小説をめぐって

書誌事項

タイトル別名
  • <RESEARCH ARTICLE>Seeking Solace in Exile : Hayashi Fumiko’s South Sea Stories
  • 南へ追われて、南でふれあいを求めて : 林芙美子の南洋小説をめぐって
  • ミナミ エ オワレテ 、 ミナミ デ フレアイ オ モトメテ : ハヤシ フミコ ノ ナンヨウ ショウセツ オ メグッテ

この論文をさがす

抄録

本論文は林芙美子の「ボルネオ・ダイヤ」(『改造』1946年)、「荒野の虹」(『改造文芸』1948年)、「浮雲」(『風雪』1949年11月-1950年8月、『文学界』1950年9月-1951年4月)などの南洋小説を総合的に取り上げ、彼女の中国大陸での従軍と南洋徴用の体験との相違を検討し、南洋での記憶がいかに戦後に継承されたかを検討する。また、林芙美子の戦後の小説に描かれた復員兵や南洋に逃亡する女性の表象を分析することを通して、戦後に引き揚げてきた主人公たちが体験した虚脱感と無力感が、いかに過去の植民地体験と結合し、それを回想させるのかを解明する。  林芙美子の中国漢口での従軍が危険と紙一重の体験であったのに対し、彼女の南洋旅行は戦場で受けた心の傷を癒す旅となった。戦後、林芙美子が書いた一連の南洋小説においては、「豊饒」な南洋を、「貧弱」な日本を浮き彫りにする他者像とすることで、戦前、アジアの「西洋」に転じた日本が、乱暴な植民地統治によってまた「東洋」に格下げされたことが描かれる。そこでは、日本にとって模範的な指導者であり、見習い追いつくべき対象としての「西洋」の姿が想像される。  また、彼女の戦後小説には娼婦として動員される女性と、男性との間の非対称な関係性が保たれているが、戦後、植民地を失った日本人男性の「男性性」が衰弱する一方なのに対し、「獣」のように生きる女性らは野性的な生のエネルギーを放っている。林芙美子は、底辺に落ちた女性に国家が付与した「娼婦性」という属性に抵抗しようとする女性たちを描くことによって、生き抜くために女性が持つ生の原動力を称えたのである。

収録刊行物

  • 日本研究

    日本研究 67 145-166, 2023-09-29

    国際日本文化研究センター

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ