シャマニズム的呪術治療と信仰の力 -シャマニズム的「薬」の民俗を中心に-

書誌事項

タイトル別名
  • Shamanic Magical Therapies and the Power of Faith -Focusing on the Folk Traditions of Shamanic Medicine-
  • シャマニズムテキ ジュジュツ チリョウ ト シンコウ ノ チカラ : シャマニズムテキ 「 クスリ 」 ノ ミンゾク オ チュウシン ニ

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抄録

シャマニズム的治療は宗教実践と人々の文化的解釈という、二つの核心領域に関わるものである。シャマニズム的宗教信仰は主に呪術儀礼と治療行為を通して表現する。ホルチン・シャマニズムの考えでは、疾病は実病(自然的、科学的病気)と「シェルタガン・タイ・エベチン(siltagan・tai・ebeqin)」とに分けられる。「シェルタガン・タイ・エベチン」を直訳すれば、「原因がある病気」である。ブォ(シャマン)的意味は医療的に原因不明となる病気、いわば超自然的要素、先祖の罰、タブー、巫病、悪霊にたたられる……などである。筆者はフィールドワークを行った際、「どのような病気を治療できますか」とホルチン地域のXJD ブォ(シャマンの名前をアルファベット+ブォと書く)に尋ねたところ、「人間には404種類の病気があって、その中で101種類の病気を「医者(otati・burhan)」が治療し、101種類の病気をラマ僧が治療し、101種類の病気が自己治療し、残りの101種類の病気をブォが治療する。それは「シェルタガン・タイ・エベチン」のことだ」と答えが返ってきた。 ホルチン・モンゴル人の霊魂崇拝から見ると、霊魂は不滅で、死後も引き続き活動すると信じられている。バンザロフは、「蒙古人は時を経るに従って死者の霊は生者に害或いは益をなすものと信ずるに至り、遂に彼等は死者を以て一種の神の中に加へ、これをオンゴンと名附けたのである。また、オンゴドを善悪の両義性を帯びた存在と捉え、悪人の死霊(悪霊)は、地表上に彷徨し、人に災いを与える場合、悪なるオンゴドにあるが、この場合、オンゴドと言わず、アダ(悪霊)と称している」[バンザロフ・ミハイロフスキー1971:41︲42]と指摘し、一般の民衆の中でほとんどの邪病はアダが害を加えたものだと信じている。このような病因観のもとで、呪術儀礼と治療行為を通して、民間信仰医療が実践されている。それはサイグ(呪薬)が患者の心身に取り憑いた悪霊を調伏し、病気や災難から守る護身符の役割を果たす文化的象徴になっており、また、薬草(生薬)などを入れた「サイグ・イン・フルグ」(補助薬)はある程度実際的な医療効果を果たしていると考えられる。 そして、本論文では、文献資料と2021年の11月から2022年2月にかけて行ったフィールドワークを取り合わせて、ブォの治療法に関して考察を行い、①「オンゴドのザサルガ」(霊的な力の由来)、②「エベスン・エム・ネ・ザサルガ」(ブォが薬草「生薬」を利用して“薬”を作り、患者の病気を治療すること)、③「アルシャーン・オガールガ」(出産、母子保健に関する専門治療と心身を清める[薬浴])という三つの事例から分析した。また、「グリム・ザサルガ」は、人間(患者)の身代わりを捨てる、あるいは燃やすなどの行為によって悪霊祓ばらい儀礼を行う呪術治療である。

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