平田小六の農民小説に描かれた組合に関する法的考察

書誌事項

タイトル別名
  • Legal Study on Various Unions in Peasant Novels Written by <i>Hirata Koroku</i>

抄録

<p> 我が国の農民文学は、明治四〇年代に確立した。そのテーマとなっているのは、地主から抑圧され、貧困に苦しむ農民である。昭和初期になると、それはプロレタリア文学の影響を受けて、農民組合の結成や小作争議など、農民の抵抗運動を描いたものが多く発表されるようになった。平田小六の長編小説「囚はれた大地」(昭和八~九年)も、その一つに挙げられる。平田は、大正末期、青森県北津軽郡で小学校教員をしていたが、その時に農民たちと接した経験が小説の題材となった。「囚はれた大地」では、農民たちが、村の有力者たちが設立した産業組合を見限って、木炭販売のための農民組合を結成しようとする状況が描かれている。本稿では、この小説を中心として、平田小六の農民小説を取り上げ、農村における組合に関する記述を検討した。そのことによって、昭和初期において、組合に関する法制度がどのように農村で受容されていたのかを明らかにするのが目的である。</p><p> この小説が発表された当時は、全ての農民を産業組合に組み込んで管理・統制しようとする国家政策が取られようとしていた。すなわち、昭和七年、産業組合法が改正され、一般農民が所属する農事実行組合を産業組合の組合員として加入させることが認められるようになったのである。しかし、当時の東北地方では、経済恐慌や凶作などの影響によって、産業組合の運営が厳しい状況に置かれていた。「囚はれた大地」でも、産業組合の運営が不振に陥って、農民たちから利用されなくなっている状況が描かれている。したがって、小説に登場する農村においては、産業組合法改正が意図した通りに、農事実行組合が順調に組合員として産業組合に統合され、農民に対する国家統制が進んだとは見ることができない。</p><p> その一方、小説では、農民たちが、自らの利益を確保するために、農民組合を結成しようとする動きが描かれている。しかし、この動きは、地主層の妨害や官憲の弾圧を受けて、頓挫を余儀なくされるという悲劇的結末を迎えることになる。ただ、農民たちにとっては、農民組合の結成に代わる次善の策として、小作調停を利用するということも考えられたはずである。それにもかかわらず、小説では、これに関する記述はなく、あくまでも農民組合の結成の必要性が強調されるのである。しかし、当時、農民の中には、地主に対する遠慮などから、農民組合の結成に対して消極的な者も少なからずいた。平田の小説の中にも、そのことを記述した場面が見られる。したがって、その小説は、当時の農民たちの間で、農民組合に対して肯定的立場と否定的立場の両方があったことを示しているといえる。</p><p> その後、昭和一〇年代に入ると、産業組合による農民の統制が進み、農民にとって産業組合は大きな意味を持つようになる。これに対して、農民組合は、国家による圧力の下、その勢いを失っていくのである。したがって、平田の農民小説は、不況などによって産業組合が停滞していた時期から、産業組合による農民の統制が達成される時期までの間の過渡的状況を示したものと見ることができるのである。</p>

収録刊行物

  • 法制史研究

    法制史研究 67 (0), 53-101,en5, 2018-03-30

    法制史学会

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