水共生学:水・ヒト・生物が持続的に共生する社会の実現を目指す学際研究
書誌事項
- タイトル別名
-
- Integrated Sciences for Sustainable Human-Aqua Environment: transdisciplinary research on water
説明
<p>水の循環に関する研究は,水文学をはじめとする自然科学の分野において多くの蓄積が認められる.これらの蓄積は水関連の諸問題の理解に大きく貢献してきた.ただその一方でそれらの問題解決に向けては未だ課題も多い.水関連の諸問題の解決には水循環の解明など地球規模の普遍性の高い一般事象を追求する研究に加えて,地域の状況や環境条件に応じた研究が重要である.近代以降の人間の活動が水危機や水リスクの大きな要因となっている状況はその重要性をより一層高めている.この点を踏まえ,水に関する従来の自然科学分野の情報と人文社会学分野の知を統合しようとする学際研究(水共生学)に取り組んでいる.水共生学では,水環境を地球圏―生物圏―人間圏の三つの圏域のせめぎ合いによって生じるゆらぎを常に内包する「水循環システム」として捉え,水循環システムがいかなる均衡のもとで推移してきたのかを明らかにすることに取り組んでいる.また,その知見をもとに将来の結節点を持続可能な範囲に維持しようとするこのシステムを持続可能な範囲に維持できるように地域の実態に即した将来像の提案を目指している.具体的な取り組みの一つとして日本最大のラムサール条約湿地であり,気候変化の影響などにより草原化が進みつつある釧路湿原が位置し,道東最大の港を有する釧路市・道東地域を共同フィールドの一つとして設定して分析を進めている.ここまでの取り組みから学際研究の課題と可能性の一端が垣間見える.課題についてはやはり興味や目的,手段のみならず,常識や善悪すら異なる可能性がある異分野の研究者がいかに協働するかという点に尽きる.学際研究の重要性は従来唱えられつつも未だ十分に達成されてはいない.そのような中で,“水循環”に関する課題は地球圏―生物圏―人間圏のいずれにおいても重要な位置を占めており,自然科学,人文社会科学,生物学が具体的な目標(例えば,水共生学では水循環システムの将来シナリオの提示)の下で協働できる可能性がある.共同フィールドを通じた水共生学の試みから水循環に関連した学際研究の実現について引き続き取り組んで行きたい.</p>
収録刊行物
-
- 水文・水資源学会研究発表会要旨集
-
水文・水資源学会研究発表会要旨集 36 (0), 47-, 2023
水文・水資源学会