マルチオミックス解析による家族性大動脈瘤・解離の素因解明:カルシウム輸送経路の障害に起因する大動脈脆弱化

DOI
  • 冨田 翔大
    自治医科大学医学部薬理学講座臨床薬理学部門
  • 石間 環
    自治医科大学医学部薬理学講座臨床薬理学部門
  • 澤城 大悟
    自治医科大学医学部薬理学講座臨床薬理学部門
  • 永井 良三
    自治医科大学
  • 相澤 健一
    自治医科大学附属病院 臨床薬理センター 薬毒物・オミックス解析室

抄録

<p>【目的】我々は先行研究において、平滑筋ミオシンをコードするMyh11遺伝子の1256番目のリジン残基(K1256)欠損を有する家族性大動脈瘤・解離モデルマウスを樹立した。その結果、大動脈の脆弱化などの病態が明らかになったものの、K1256変異が大動脈解離を引き起こす素因の究明には至らなかった。そこで、本研究ではマルチオミックス解析(トランススクリプトーム解析+メタボローム解析)を駆使し、網羅的かつシステム的解析を行い、Myh11変異マウスにおける大動脈解離の素因となる病的変化を同定した。</p><p>【方法】Myh11 K1256ホモ欠損型マウスとヘテロ欠損型マウス及び野生型マウスの大動脈を対象とし、RNAシーケンスから得られたトランスクリプトームデータのパスウェイ解析及びメタボローム解析を行った。</p><p>【結果・考察】Myh11 K1256ホモ欠損型マウスとヘテロ欠損型マウスに共通して22ものパスウェイが減少していることを突き止めた。さらに、そのうち19パスウェイは膜タンパクに関連するものであった。それら19パスウェイにはカルシウム輸送経路が含まれており、細胞質内のカルシウムイオン濃度を上昇させる仕組みに障害があることが明らかになった。さらに、NAD+を基質としたADPリボースとニコチンアミドを合成する酵素の発現がMyh11 K1256ホモ欠損型マウスで低下していた。また、メタボローム解析によって、Myh11 K1256ホモ欠損型マウス大動脈においてニコチンアミドが減少していることが判明した。したがって、NAD+と同時に合成されるADPリボースもMyh11 K1256ホモ欠損型マウスで低下していると考えられる。ADPリボースは一過性受容体電位型チャネルを刺激しカルシウムの取り込みを促進するため、Myh11 K1256ホモ欠損型マウスではカルシウムの流入経路が減衰していると考えられる。また、細胞膜の支持機構にも障害があることがトランスクリプトーム解析から明らかになった。このことから、タンパク発現の足場が脆弱化し、カルシウム輸送タンパク発現が低下した可能性がある。</p><p>【結論】本研究で、トランスクリプトーム解析とメタボローム解析を駆使し、データ駆動型マルチオミックス解析を行い、Myh11 K1256ホモ欠損型マウスにおいてカルシウム輸送経路に障害があり、これが大動脈解離の素因となることが明らかになった。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390298742739579264
  • DOI
    10.50993/jsptsuppl.44.0_3-c-p-h2
  • ISSN
    24365580
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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