ドーピング禁止薬物の検体分析

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  • 岡野 雅人
    株式会社LSIメディエンス アンチドーピングラボラトリー

抄録

<p>薬物は疾病の治療、診断、予防、健康の維持に使用され、人類の健康に大きく貢献している。一方で、ストレスからの解放のような嗜好目的での薬物乱用、さらに、スポーツにおける競技力向上を意図した競技者による薬物不正使用、いわゆるドーピングは、近年では、トップアスリートにまで広がりを見せている。1999年に、国際レベルのあらゆるスポーツにおけるアンチ・ドーピング活動を促進し、調整することを目的として、世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency: WADA)が設立された。2003年に、世界アンチ・ドーピング規程が制定され、ドーピング防止に関する世界統一の規程の下、調和したアンチ・ドーピング活動が開始されるに至っている。競技者の尿試料もしくは血液試料からのドーピング禁止物質の検出、いわゆるドーピング検査における検体分析は、アンチ・ドーピング活動の中で重要な位置を占めている。オリンピックにおいては、1968年のグルノーブル大会からドーピング検査が開始された。医療の進歩を追いかける形でドーピング目的に使用される薬物は年々増え続けている。禁止物質の分析は、現在、世界約30箇所のWADA認定試験所でのみ実施される。禁止物質は低分子化合物からタンパク・ペプチド製剤など多岐にわたるため、分析は質量分析法、イムノアッセイ法、電気泳動法など様々な分析手法を用いて実施され、新たな禁止物質の分析法開発も続けられている。分析においては単に尿や血液中の薬物を検出するだけではなく薬物動態情報をもとに最適な分析対象物質と検査材料を選定することが重要となる。また、こうした禁止物質の代謝物質などは疾病治療で使用した許可薬物と共通の代謝物質となる場合もあり薬物動態に関する情報をもとに由来識別の分析が行われる。さらに、分析機器の性能向上に伴い、微量の物質の検出が可能となる反面、競技者が意図せず摂取した医薬品やサプリメント中の汚染薬物、肥育目的に使用された家畜の食肉に残留した医薬品由来を摂取したことによるドーピング違反に問われるケースもある。近年では遺伝子編集技術の進歩に伴い、薬物の使用にとどまらず遺伝子操作によるドーピングの検出も求められている。ここでは国際基準に基づくドーピング検査における最新の検体分析について議論する。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390298742739599232
  • DOI
    10.50993/jsptsuppl.44.0_3-c-s40-3
  • ISSN
    24365580
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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