多摩川における絶滅危惧種カワラノギク個体群再生事業の20年間:洪水周期、活動組織の継続性と再生個体群の存続

  • 岡田 久子
    明治大学 農学部 カワラノギクプロジェクト
  • 倉本 宣
    明治大学 農学部 カワラノギクプロジェクト
  • 伊東 静一
    NPO法人 自然環境アカデミー カワラノギクプロジェクト

書誌事項

タイトル別名
  • 20-year history for <i>Aster kantoensis</i> population restoration project in the Tama River, Japan: Flooding cycle, continuity of organization and the fate of restored population
  • タマガワ ニ オケル ゼツメツ キグシュ カワラノギク コタイグン サイセイ ジギョウ ノ 20ネンカン : コウズイ シュウキ 、 カツドウ ソシキ ノ ケイゾクセイ ト サイセイ コタイグン ノ ソンゾク

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抄録

<p>河原固有植物は、洪水での裸地形成による生育可能地の創成と、流出・埋没や競合植物の繁茂による消失のバランスの中で個体群を維持している。多摩川中流域では20年にわたり市民・行政・研究者の協働による絶滅危惧植物カワラノギクの保全活動(カワラノギクプロジェクト)が実施されている。河川生態学術研究会多摩川グループ・カワラノギクプロジェクトは、2001-2002年にかつて多摩川で最大であったカワラノギクの地域個体群(通称は草花個体群、2015年に消滅)の下流に礫河原を造成し、草花個体群の種子を播種して草花個体群を補強する活動を始めた。比高が高く5年に1回の冠水頻度である工区に播種した新しい局所個体群は比高が低い工区にも拡大した。播種工区では競合植物の繁茂で個体数が減少し2006年から競合植物の除草を開始した。2007年に造成地全体が冠水する大規模な洪水が生じ、比高が低い工区では大部分が裸地となったため種子散布による実生の定着が促進され、局所個体群の範囲が拡大した。2015年以降、比高が高い播種工区では競合植物のさらなる繁茂により開花個体数は80株以下に減少し、比高が低い工区も洪水規模が小さく裸地化せず全体の個体数が減少した。その後、2019年の未曾有の大洪水により造成地の全個体が消滅した。造成地で採取した保存種子で2020年と2021年に再導入し、2021年秋に造成地で211株の開花個体を確認した。また、2017年以降は造成地以外においても好適な生育可能地に播種をおこなった。個体群の成長予測を表すロゼット/開花個体数比は裸地化後2年目に最大となり3年目には低下し始め、競合植物の除去による個体群の維持は労力的に困難であった。また極大規模な洪水により局所個体群全体が消失するイベントも存在する。このため河川の狭い範囲を人工的に裸地化して個体群を導入し除草により維持するよりも、河川全体に散在し時間とともに分布を変える好適な生育可能地に臨機応変に播種する方が現実的である可能性がある。カワラノギクプロジェクトは、行政による河川管理計画の情報提供、生育状況を判断する研究者の知見、市民ボランティアの作業力を集約し、河川環境やカワラノギクの生育状況にあわせて活動内容の修正を行ってきた。絶えず変化する河川環境では、継続性と順応性を備えたカワラノギクプロジェクトのような保全活動が有効である。</p>

収録刊行物

  • 保全生態学研究

    保全生態学研究 28 (2), 411-423, 2023

    一般社団法人 日本生態学会

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