歯内療法における偶発症
書誌事項
- タイトル別名
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- Management of iatrogenic events in endodontics
- ―穿孔,レッジおよび根管内破折器具について―
抄録
<p>抄 録:歯内療法の過程で偶発症が生じた場合,根管内病原因子の除去や病原因子の再侵入の阻止が十分に行えず経過不良となる場合がある.偶発症を伴う症例では,まず冷静に問題の発生状況を的確に診断し,誠意をもって十分な説明を通じて患者の不安を和らげ,問題を解決することが肝要である.本稿では歯内療法における代表的な偶発症である穿孔,レッジおよび根管内器具破折について,その対応を中心に概説する.</p><p> 穿孔は根管系と歯根表面との機械的または病理的な交通のことであり,彎曲した臼歯部に多く生じ,以前は穿孔が生じていると予後不良のことが多く,抜歯も現実的な選択肢であったが,1990年代よりMTAセメントの開発と研究が進み,保存可能な偶発症となった.しかしながら,10年以上の長期的な経過については一度治癒した後の再発が高率に生じていたという報告もあり,穿孔修復による治癒後も慎重な経過観察が必要である.</p><p> レッジとは本来の根管形態から逸脱した人為的な棚状の形態であり,彎曲根管に対して追従できず直線化して形成することに起因することが多い.レッジそのものが問題というよりも根尖部への器具の到達が困難になることで根管清掃を妨げ,経過不良となることが多い.レッジと本来の根管の位置を把握し,プレカーブなどを用いて内彎側に存在する本来の根管形成を試みるが,レッジより先の根尖部根管は清掃不十分になりやすく,徹底的な根管洗浄を心掛けるべきである.</p><p> 根管内器具破折は文字どおりの病態で過失が明確であるため,トラブルの多い代表的な偶発症である.しかしながら,穿孔やレッジよりも成功率低下に大きな影響を与えないことも多い.感染状況,難易度について診査を行い除去の可否診断を行い,必要に応じて除去を試みる.歯科用実体顕微鏡や歯科用コーンビームCT(CBCT)などの普及により破折器具除去に従来ほどの高いハードルはなくなったが,彎曲度,器具の長さ,破折位置によっては依然として難易度が高く,レッジや穿孔などの新たな偶発症が生じやすいことにも留意するべきである.</p><p> 偶発症の治療ではそれ自体の解決や対応に着目しがちであるが,あくまでも偶発症対応の勘所は,患者への十分な説明,正確な診断および本来の根管の十分な清掃と緊密な充塡をいかに達成させるかという歯内療法の原則遵守にある.</p>
収録刊行物
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- 日本歯内療法学会雑誌
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日本歯内療法学会雑誌 45 (1), 22-33, 2024
一般社団法人 日本歯内療法学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390299151931112320
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- ISSN
- 24239429
- 13478672
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可