重症心身障害児(者)のQOLをいかに保つか

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  • −びわこ学園医療福祉センター草津での暮らし−

抄録

Ⅰ.はじめに 新型コロナウイルス感染症により利用者の生活への制約を受けることで利用者の暮らしにどのような影響を及ぼしたか、またQOLを保つためにどのような工夫を行ったかについて報告する。 Ⅱ.びわこ学園における本人理解の手法 1.生活支援の目的 利用者はびわこ学園という場で暮らしを営む生活者である。どんなに障害が重くても『生活の主体者』として暮らしを支援する。また、障害が重いということは、多様な支援ニーズがあり「障害があるが故の生きにくさ」として理解され、それぞれが専門知識を駆使し、利用者の願いを代弁し実現する必要性がある。 2.理解と援助の過程 びわこ学園では本人理解の手法として「発達的視点」を活用している。 「発達」とは、外界からの情報を取り入れ、自ら外界に働きかける外界交流活動の枠組み、および活動の主体である自我・人格の育ちを指す。重い障害があり自己表出が困難な利用者の行動から、利用者の意図や意味を理解することが必要となる。利用者がどのように外界の情報を受け止め処理し、外界に働きかけようとしているかを知ることで利用者が外界に主体的にかかわるための適切な支援が可能になる。 また、発達的視点は、乳児期から成長期のみならず、壮年期、老年期、終末期、そして死まで対象とし、人格の発達や円熟といった視点も含めた「生涯発達」という考えに広げてとらえる。今後は利用者の高齢化に伴い人生の終焉まで「よりよく生きる」支援が問われている。 Ⅲ.環境の変化による利用者の様子 1.環境が及ぼす利用者への影響を利用者の状態像から考察する。 1)乳幼児期相当(事業所入所者の約70%) 状態像 ・表情、声、視線、手の動きなどを介して対人交流を求めるが、意図は支援者がくみ取る段階(表出手段として:ハートレートの変化、筋緊張の亢進などの変化等あり)。 ・繰り返される日課の場面で、その場で起こることへのこころづもりや予期が育つ。 2)乳幼児期後半相当(事業所入所者の20%) 状態像:自分なりの意図をもって関わりを求め、意図的伝達が可能になり始める。 ・ものや人の働きかけを手掛かりに、日課の流れや生活空間の理解ができ始める。 3)幼児期相当(事業所入所者の10%) 状態像 ・日常生活で体験している範囲であれば簡単な言葉を理解し、コミュニケーションが成立する。自分のもの、場所、行為などを主張し自己領域を形成していく。 ・ものの道具的理解が拡大し、作業やお手伝いなどが主体的に取り組める。 ・繰り返される日課については自らこころづもりがもてる。 2.利用者の様子(表1) それぞれの項目について、利用者の様子を記す。 1)外出 (1)乳幼児期相当(事業所入所者の約70%) 日々のケアを安定して行うことで「外出に向かう心と体の準備」の支援を受け、本人の興味関心のあるものを体験する中で快の表出が見られる(興味関心の確かめなおし)。 (2)乳幼児期後半相当(事業所入所者の20%) 日々のケアを安定して行うことで「外出に向かう心と体の準備」の支援を受け、外出当日、具体物を準備することや目的地に向かう車中で「いつもとちがう」ことに気づき、行程の中で起こることを楽しむ(興味関心の世界の確かめなおし)。 (3) 幼児期相当(事業所入所者の10%) 日々のケアを安定して行うことで「外出に向かう体の準備」の支援を受け、事前準備として外出先の目当てとなる物の提示、当日の衣類の準備、持ち物など実物を提示しながら「つもりを持つ支援」を行うことで、自分なりのつもりをもって当日を楽しむことができる。 2)活動 (1)乳幼児期相当(事業所入所者の約70%)(2)乳幼児期後半相当(事業所入所者の20%) 共に、日々繰り返されるケアの中に多くの関わりの時間があるため、大きな混乱は見られない。 (3) 幼児期相当(事業所入所者の10%) 日常生活の変化に戸惑いを持たれる方々は、従来よりグループ単位での日課の整備をすることで、安定した流れが作られており、大きな混乱はない。「好きなこと」「楽しい時間」がある毎日が安定を支える。 3)家族 面会中止の判断後Web面会の準備を整え活用した。以下特徴的な場面。 外界からの働きかけに対する表出が微細な方が、父や母の声を聞き取り、笑顔になる姿あり。また、高齢・遠方のため面会が遠のいていた方が数年ぶりに娘の姿を見て感激。利用者は声が聞こえるが母の姿を探す姿あり(繰り返すことで理解される)。 Webとリアルのハイブリッドでの誕生会。お母さんだけが病棟に行き、ホールで兄弟がタブレットでハッピーバースディを歌いお祝いをする。 タブレットの画面越しでも、いつもの玩具を映し出しいつもと変わらぬ親子のやり取りを楽しむ姿。 面会中止の判断を受けた家族の思いは、「通常の面会(散歩など)ができないと悲しい思いをさせる」との思いから控える家族あり。また、感染者が多く出た地域からは、「うつしたらあかんので、やめときますわ。元気にしていますか?」と電話で様子をうかがう家族あり。 Ⅳ.考察 1.感染対策下での暮らしが利用者にどのような影響を及ぼしたか、以下のように考察する。 乳幼児相当の方は、日々くり返されるケアの中に本人の表出をとらえながら関わりを持つことで、新型コロナ感染症前と変わらない表情ですごすことができている。しかし、面会可能な時期は、家族を感じる表情の変化あり。行事や外出の際には、いつもと違う日常を感じ、わくわくするような様子がうかがえた。 幼児期相当の方はこれまで同様に、グループの活動が継続される中で、楽しむ、期待する、他者に向かって意思表出をすることができている。しかし、家族が来た時、病棟外に出ていつもと違う人に出会った時、花や緑の風景や小鳥の鳴き声、風に吹かれる感触などで表情が変わった。一番の笑顔は(以前より好きな飲み物を購入していた)自動販売機の前。こうした潤いが乏しかったことによるストレスは感じていた可能性がある。 2.学んだこと 感染対策による制限のある暮らしであるが、利用者にとっては、日々の暮らしの安定が外界に向かう心と体を作るため、日々のケアの重要性を再確認した。従来より取り組んできた内容ではあるが以下のように再確認する。 (1)ケアの際の留意点として、行為を行う前には声をかけ、身体に触れるなどの働きかけで本人が構えを作りやすいように配慮すること。 (2)姿勢変換や移乗、ケアの際の声かけや手順、方法を職員間でできるだけ統一することで、本人がどのように動くか予測しやすく、構えが持ちやすいと同時に、自発的な動きを引き出す。  (3) 場所や流れ、物や席の配置,導入(開始前の始まりの曲、合図、あいさつなど)や働きかけや声かけの仕方を一定に継続することで、こころづもりや期待感を持ちやすいようにする。そのうえで、本人の表出をとらえ、期待感をとらえながら働きかけていく。 3.おわりに もし仮にスタッフに感染者が出ても、そのスタッフが回復して戻ってくるまでは、他のスタッフがその人の思いを受け止め、共に利用者支援に当たりたい。また、日々の暮らしの時間を少しでも豊かになる工夫をしながら、次の春に備えて、利用者と行きたいところ、食べたいもの、楽しみたいものを思い描きながら、準備を続け願いを実現したい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299229355471872
  • DOI
    10.24635/jsmid.46.1_43
  • ISSN
    24337307
    13431439
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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