「重症心身障害施設における新型コロナウイルス感染症対策セミナー」を 開催して

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抄録

2020年10月に大分市で開催予定であった「第46回日本重症心身障害学会学術集会」が、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の感染拡大により延期になった代わりに、各施設でのCOVID-19対策の参考となることを目的に今回のセミナーが開催された。 セミナーは重症心身障害学会・伊東宗行理事長(みちのく療育園)の開会挨拶のあと、舘田一博先生(東邦大学教授・日本感染症学会理事長)による特別講演「COVID-19:その特徴と効果的な感染対策」、青野茂昭先生(自衛隊中央病院)の「自衛隊中央病院における院内感染対策について」、中村朗先生(国保旭中央病院)の「知的障害者施設におけるクラスター対応の経験」の3題の講演が行われた。 舘田先生は、これまでのパンデミックとなった感染症の歴史とともに、COVID-19のウイルス学的特徴、疫学、臨床症状、感染対策などの基本について解説された。日本感染症学会理事長として日常診療とともに政府関連の会議等に参加されるご多忙の中、テレビで拝見する先生の語り口のとおり丁寧でわかりやすいお話で、参加者はCOVID-19を包括して理解できたと思う。 青野先生には自衛隊中央病院の感染対策やCOVID-19の受け入れを通した経験や院内感染対策について解説していただいた。第1波の口火となったクルーズ船内のクラスターや感染患者の対応にあたり、業務の中で感染者を一人も出さなかった自衛隊中央病院の感染対策や教育研修システムについて講演で紹介された。自衛隊中央病院の感染対策の基本は「大切なのは基本を守り続けること」であるという。感染対策はこのことに尽きる。 中村先生の講演では千葉県における知的障害者施設におけるクラスター対応が紹介された。3密回避、マスク着用や手指消毒など自己の感染対策ができない入所者の感染対策に対応された施設職員や行政、医療関係者に敬意を表したい。それと同時に、障害者施設における感染防御の重要性が再認識されたと思う。 午後は2つのシンポジウムが行われた。シンポジウム1は「重症心身障害児(者)の受け入れ体制と医療連携」をテーマとして、米澤祐介氏(厚生労働省障害保健福祉部障害福祉課)、竹本潔先生(大阪発達総合療育センター)、鈴木由美先生(国立病院機構下志津病院)、梶川優氏(国立病院機構西別府病院)にそれぞれの立場から取り組みをお話ししていただいた。米澤氏は「行政の支援施策」として国の施策を紹介されたが、新興感染症への医療機関の対応には施策と直結することも多く貴重な機会となった。竹本先生は、「大阪府下の対応」と題して行政や医療機関などの連携について紹介された。セミナーの開催時点では大阪での重症児(者)の発症が報告されていない状況であった。しかし、感染拡大が進む大都市圏でかつ高度な医療ケアを受けている重症児(者)の数が多いことなど、大阪の取り組みは参加者も関心を寄せていた。鈴木先生からは、「国立病院機構施設の対応状況」として、国立重症心身障害協議会や重症心身障害研究ネットワークの調査に基づいた現状や課題が紹介された。感染対策に加えて入所者の日中活動支援や面会などは地域の感染状況を踏まえて各施設が手探りで対応している状況であるが、施設間の情報共有は有用であることが理解された。最後に梶川氏からは「国立病院機構西別府病院の取り組み」として、感染管理認定看護師の視点で、患者受け入れの準備や実際に濃厚接触者となった重症児の受け入れ対応について発表があったが、準備の中でシミュレーションの重要性が強調されていた。 シンポジウム2「入所者・在宅者のQOLをいかに保つか」では、面会制限や外出制限に関わる取り組みについて3氏からお話しいただいた。エムスリーの岸上香奈氏の「オンライン面会 導入・運用にあたっての注意」では、通信アプリでは情報漏洩を完全に防ぐことは困難であることを念頭においた運用上の注意点が示された。家族の高齢化や交通アクセス、そして感染対策の点から、オンライン面会は院内と病室から自宅と病室との通信につなげる必要があると思う。また、海外旅行がままならない患者にVR(仮想現実)海外旅行を提供するアプリケーションが紹介されたが院外レクリエーションの代替手段として活用も期待される。大塚貴幸看護師長(国立病院機構・肥前精神医療センター)からは、「患者の精神安定と家族の安心感を目指したオンライン面会の取り組み」と題して、同センターにおける知的障害に高度な情緒・行動障害をもつ患者と家族を対象にしたオンライン面会の取り組みが紹介された。強度行動障害をもつ患者を対象としており、スタッフや機器の工夫や課題が示された。最後に久保多信幸生活支援部長(びわこ学園医療福祉センター草津)は、福祉の立場から入所者の生活や心理・行動面の変化を紹介された。幸いにも面会制限や外出制限により心理・行動面での変化は起こっていないようであったが、感染が落ち着いた段階での家族面会や外出時の表情の輝きなどから制限に伴うストレスの可能性と、日々の暮らしの安定やケアの重要性について再確認されたことが示された。特に、関わりにおける“声かけ”“身体接触”“統一性”“継続性”などを強調されていた。 院内感染対策が優先されるべきであるが、これまで得られた知見を踏まえて、入所者のこころの安定という点で感染管理のあり方も検討する必要がある。今回はシンポジウムのもう一つのテーマである在宅者について取り上げることはできなかったが、本学会や関連学会などで在宅者のQOLについて取り上げられることを期待したい。 WEBセミナー開催の直前に、北海道療育園(旭川)とやまびこ学園(北九州)でCOVID-19のクラスターが発生し、テレビ等でも大きく報道された。どの重症心身障害施設でもクラスターがいつ発生してもおかしくない状況であることを踏まえて、多くの参加者からも気がかりな声が寄せられた。北海道療育園の林時仲先生からは対応状況についていずれ報告する機会を持ちたいというご連絡をいただき、やまびこ学園の金海武志先生からは発症状況について資料を用いてご説明があった。両先生にはこの場をお借りして感謝申し上げたい。 COVID-19への対応は集団免疫が獲得され、普通のかぜとなるには数年かかるといわれている。重症児(者)が感染した場合の重症化や管理について知見は全くない状況であるが、学会は情報共有や協働での取り組みの場や機会として役割を果たす必要があるとセミナーを通じて再認識した。 最後にセミナー開催にあたりご尽力いただいた講師の先生とともに、世話人である岩崎裕治(都立東部療育センター)、山本重則・鈴木由美(国立病院機構下志津病院)、徳永修(国立病院機構南京都病院)の先生方、セミナーの企画運営にあたっていただいた黒川知穂氏他プロコムインターナショナルの皆様、そして施設等でオンライン開催の運営にあたられた方々に深謝申し上げたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299229355478656
  • DOI
    10.24635/jsmid.46.1_3
  • ISSN
    24337307
    13431439
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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