死因究明において法中毒学、毒性学に求められるもの:死因究明等推進基本法の施行をうけて
-
- 久保 真一
- 福岡大学医学部法医学教室
書誌事項
- タイトル別名
-
- What is required of forensic toxicology and toxicology in investigating the cause of death: In response to the enactment of the Basic Law for Promoting Cause of Death Investigation
抄録
<p>法中毒学で扱う薬毒物分析は、これまでは乱用薬物等の分析や乱用者の尿等の分析、司法解剖における中毒死の診断のための分析が中心であった。令和2年4月に施行された死因究明等推進基本法(以下、基本法)は、死因究明等に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、安全で安心して暮らせる社会及び生命が尊重され個人の尊厳が保持される社会の実現に寄与することを目的としている(第1条)。薬毒物分析は、死因究明のための死体の科学調査(第15条)と位置つけられた。死因究明推進計画は、①人材の育成、②教育及び研究拠点の整備、③専門的機関の全国的な整備、④実施体制の充実に分けて計画されている。このなかで薬毒物に関する施策は18項目に上っている。①人材の育成に関しては、卒前教育では②教育及び研究拠点の整備にも関わってくる。薬学部(薬科大学)における法中毒学、毒性学の教育において、死因究明に関する教育・研究が必要となる。薬学教育モデル・コア・カリキュラム:令和4年度改訂版では、E-3-1 「人の健康に影響を及ぼす化学物質の管理と使用」において、「(7) 死因究明における毒性学・法中毒学的アプローチ」が盛り込まれ、今後、薬剤師国家試験出題基準にも死因究明に関する項目が明記されることになる。次に②教育及び研究拠点の整備においては、死因究明に関する教育・研究に、進歩的な取り組みを行っている大学に対し、国が予算配分し、整備することになるであろう。一方、③専門的機関の全国的な整備、④実施体制の充実では、死因究明のために採取された血液や尿試料から薬毒物を分析する機関の整備・充実が図られる。大学等の薬毒物を分析・研究する機関において、死因究明のための薬毒物分析体制の構築と充実を図ることになる。基本法の施行をうけて、大学(院)等における死因究明に関する法中毒学、毒性学の教育・研究および薬物分析は大きく変わることであろう。</p>
収録刊行物
-
- 日本毒性学会学術年会
-
日本毒性学会学術年会 50.1 (0), S12-1-, 2023
日本毒性学会