なぜバングラデシュのヒ素汚染地域でメタボリック症候群が増加するのか
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- 姫野 誠一郎
- 昭和大学薬学部
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- Hossain KHALED
- ラジシャヒ大学
書誌事項
- タイトル別名
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- Why did metabolic syndromes increase among the residents in Bangladesh exposed to arsenic?
抄録
<p>バングラデシュでは1970年代の独立以降800万本以上の井戸が掘られたため、他に例を見ない大規模なヒ素中毒が起こった。我々は2009年以降、バングラデシュ西部のヒ素汚染地域での健康影響とヒ素曝露レベルとの関係を調べてきた。その結果、皮膚症状や発がんだけでなく、ヒ素曝露によって血圧血糖値の上昇が起こることを見出してきた。また、血清脂質のうち、酸化LDL-Cが上昇し、HDL-Cが低下していた。被験者の平均BMIは21-22という低いレベルであるが、腹囲と上腕三頭筋皮脂厚が上昇していた。これらの指標の変化からメタボリック症候群の判定を行うと、ヒ素曝露依存的にその頻度が増加していた。我々はヒ素曝露によってなぜ糖尿病が増加するのかの機序を調べる過程で、ヒ素曝露レベルに応じて筋肉量のマーカーである血清クレアチニン濃度が低下し、低下が顕著であるほどインスリン抵抗性が上昇していることを見出している。血清クレアチニン濃度が低い、あるいは低下するとその後の糖尿病のリスクが上昇するとの疫学調査の結果が複数報告されているが、興味深いことにそのほとんどは日本、韓国、中国からの報告である。現在、体組成計、握力計などを用いてバングラデシュの住民の体脂肪、筋肉量、筋力の測定を行っている。予備調査で、ヒ素曝露レベルに応じて筋力、筋肉量が低下し、体脂肪率が増加することを見出している。これらの結果は、ヒ素が筋肉量を減らす一方、体脂肪量を増加させる、いわゆるサルコペニア肥満を起こしている可能性を示唆する。バングラデシュのヒ素汚染地域での観察結果は、ヒ素毒性の標的としての筋肉、脂肪代謝の重要性について新たな視点を提供する可能性がある。</p>
収録刊行物
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- 日本毒性学会学術年会
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日本毒性学会学術年会 50.1 (0), S36-4-, 2023
日本毒性学会