重症心身障害児および障害者における骨折と骨粗鬆症について

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  • 酒井 朋子
    東京医科歯科大学附属病院 リハビリテーション部

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抄録

重症心身障害児および障害者(以下、重症児(者))においては骨折発生率が高いことが知られている。骨折は在宅と共に施設内でも多く経験され、施設内入所者の骨折発生頻度は年間2~5%にのぼるという報告がある。重症児(者)においては骨折の発見に難渋することも多く、実際の骨折率はさらに高い可能性がある。施設内で骨折予防対策を強化すると骨折の検出率が上がり不顕性骨折を洗い出し、年間の骨折発生頻度がむしろ増加してしまうことも経験する。 受傷機転であるが在宅では自宅での入浴、おむつ替え、更衣など、介護場面での発生が多く、施設内では装具作成時や可動域訓練、レクリエーションなど施術中の発生も経験している。骨折発生部位としては、下肢が多く、なかでも大腿骨顆上骨折と足関節骨折がとくに多かった。下肢に次いで、上肢や脊椎の骨折も認める。股関節や膝関節の拘縮があるため、おむつ交換や更衣の場面で、脚の挙上や開脚時に梃子のような力が膝や大腿骨に伝わると骨折が生じる。車いす移乗時に下腿がぶつかり骨折を起こす場合や、ベッド柵に手を当てて前腕や肘を自傷するケースもあった。また約半数の受傷機転が不明なことも特徴で、軽微な力による受傷のため骨折発生に気づかれない場合や、自身の強い緊張や自重に耐えられず骨折がおこる場合があると考えている。 治療としては、骨折部が不安定で骨が皮膚を貫く恐れのあるようなケースは手術治療を行う必要があるが、多くは保存的治療が選択される。経過は良好で、比較的早期に化骨が形成され、強固な骨癒合が得られる特徴がある。骨癒合を得るためにはギプスをまくことや副木を当てることで骨折部を固定し同部の安定化をはかることが重要で、固定により骨癒合までの痛みの軽減が図られ、また移動等必要な活動が可能になる。痛みの訴えがはっきりしない場合でも骨折部の固定をすると、それまで促迫していた脈拍がおちついてくることも多く経験される。表情や体調変化より骨折の存在を疑い早めに発見し、固定により痛みから解放すること、骨癒合をはかりご本人の活動性を維持することが重要である。当日の口演のなかで、多くの症例を供覧したい。 骨折の原因としては、骨の脆弱性、つまり骨粗鬆症の存在があげられる。演者訪問の東京都東部療育センター入所者における調査ではすべての世代においてほぼ全例に重度の骨粗鬆症の存在を認めた。いわゆる原発性骨粗鬆症が閉経後の女性に生じる女性ホルモンの減少により骨吸収のスピードが上がり骨密度の低下をきたすものであるに対し、重症児(者)の骨粗鬆症は小児期や若年時より認められる続発性骨粗鬆症であり、幼児期から青年期に十分な骨密度の増加が得られないことによるものでバイオマーカーは成人以後、骨吸収、骨形成マーカー共に正常値を示す。原因として、不動や抗てんかん薬投与、日光照射不足、栄養障害など、原発性骨粗鬆症とは異なる様々な因子の関与が指摘されており、経管栄養者においては経口摂取者よりも骨密度がさらに低値を示すことからビタミンDやビタミンKなど骨代謝に必須な物質の欠乏の可能性にも配慮すべきである。 重症児(者)の骨粗鬆症への対応として栄養面への配慮、不動に対するリハビリテーション治療などが基本になることはいうまでもないが、骨折を繰り返す重症児(者)に対しては骨折予防のため骨粗鬆症に対する薬物治療を行うことが勧められる。原発性骨粗鬆症に対し承認されている薬剤を重症児(者)の年齢、予想される骨粗鬆症の要因と薬剤の作用機序、投与方法を検討し個別に選択することとなる。長期投与を視野に入れた薬剤選択となるため、投薬とともに予期せぬ休薬による副作用にも配慮しながら、多角的な視点から個々の状況に合わせて選択する必要があると考えている。薬価の高い薬剤も多く、入所者であれば医療負担にも配慮する必要があるかもしれない。当日、各薬剤の特徴を提示したい。 略歴 1989年東京医科歯科大学医学部を卒業。 同年東京医科歯科大学医学部附属病院整形外科入局。 同愛記念病院、日産玉川病院,国立印刷局東京病院 等、 関連病院勤務を経て、現在、同大学病院リハビリテーション科長、部長。 東京都東部療育センター、秋津療育園に訪問。 所属学会:日本リハビリテーション医学会、日本整形外科学会、日本股関節学会、日本重症心身障害学会

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