昆虫の卵巣成熟の制御機構

  • 高木 圭子
    京都工芸繊維大学 応用生物学系 昆虫工学教育研究分野

書誌事項

タイトル別名
  • コンチュウ ノ ランソウ セイジュク ノ セイギョ キコウ

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抄録

<p> 1.はじめに</p><p> 昆虫生理学の始まりは,ピンセットや糸などを使った外科的な実験だった。その後,突然変異体の解析やショウジョウバエを中心としたトランスジェニックの技術,現在ではゲノム編集といった技術により,外科的な実験で得られた知見に関わる具体的な分子が次々と明らかになっている。90年代に発見されたRNA干渉(RNAi)は,発現したmRNAを分解する現象であった。その後,実験室で人工的に誘導することが可能となり,昆虫のみならず多くの生物の研究で利用されている。カイコガをはじめとするチョウ目昆虫やショウジョウバエのハエ目はRNAiの影響が体全体に広がることは無く,cell autonomousな検証に向いている。一方,ゴキブリ目・カメムシ目・コウチュウ目などは,体腔に二本鎖RNAを注射するだけで,その影響が全身に広がる(systemic RNAi)という簡便さから,近年ではこれらの昆虫においてRNAiは頻繁に使われる実験手法である。幼虫期,蛹期,成虫期いずれの時期においても,任意の遺伝子の部分的な配列を持った二本鎖RNAを注射することで,容易に遺伝子のノックダウンができ,その影響は,配列にもよるが,数週間は維持される。また,メスの成虫に注射した場合,二本鎖RNAは卵細胞に取り込まれ,卵細胞もしくは胚での遺伝子ノックダウンを簡単に誘導できる場合もある(maternal RNAi)。そこで,systemic RNAiがよく作用することで知られているコウチュウ目コクヌストモドキの卵巣を対象とした筆者らの研究を紹介する。昆虫の卵巣は大きく分けて二つ,panoistic型とmeroistic型に分けることができ,meroistic型はさらにpolytrophic meroistic型とtelotrophic meroistic型の二つに分けられる。卵巣における卵細胞の成熟などの現象の理解はpolytrophic型が最も進んでおり,これは,遺伝子操作が最も進んだキイロショウジョウバエがこのタイプの卵巣を持つことがその一因と言える。昆虫の生殖を包括的に理解するためには他のタイプの卵巣の詳細も知る必要がある。本稿では,キイロショウジョウバエとコクヌストモドキの研究を中心に,二つの卵巣型を比較しながら述べる。</p>

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