最適性理論と学習英文法―否定のサイクルをめぐって―

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タイトル別名
  • Optimality Theory and Pedagogical Grammar for English Learners: The Case of Jespersen’s Cycle of Negation
  • サイテキセイ リロン ト ガクシュウ エイブンポウ : ヒテイ ノ サイクル オ メグッテ

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抄録

抄録  学習英文法では英語学習上の効率と効果が最大限に配慮されていることから、主に規範的な表現の扱いが中心となり、また説明のための道具立ても限定されてしまっている。一方、学習英文法で「非標準」あるいは「非文法的」として排除される表現の中には、地域や共同体、年齢層などによっては「容認可能」と判断され、実際にはインフォーマルな場面で使用されているものが少なくない。学習英文法の中身は更新されることがないことから、かつては容認されていなかったものの、その使用が英語母語話者たちのなかで徐々に広がりを見せている表現については、「間違った」判断をしてしまうことがあるのだ。また学習英文法はその目的のために、システムとして説明・記述のための一貫した道具立てを欠いていることから、言語現象によってはその取り扱いについて複数の相反する分析を提示することがあり、一定の習熟に達した(教師を含む)英語学習者に混乱を引き起こしている。こうした問題は、学習者にとって英語という言語のさらなる深い理解を妨げる要因となっている。その根本の原因は、学習英文法が言語理論と有機的に結びついておらず、すでに完成し閉じた体系となってしまっていることにある。よって、学習英文法に言語学の知見をそのまま「下ろす」のでなく、国内の英語教育環境を考慮し、また言語理論とも接続する新たなレベルの英文法が必要とされている。本論文は、通例否定文で使われる表現が意味の変更を伴わずに否定辞脱落の形式でも使われる現象を取り上げ(e.g., Idon’t know beans about it. “I don’t know anything about it” = I know beans about it.(Huddleston and Pullum 2002: 823))、最適性理論の基本的な概念を導入し、否定のサイクル(Jespersen 1917)の問題として捉えることで、当該事例や類似の現象は「制約の優先順位の違い」として説明できることを示す。そして言語理論の適切な適用範囲を見極め、言語理論は英語学習にどのような形でどの程度に歩み寄り、貢献できるのかを考察する。

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