精神運動発達遅滞児でコミュニケーション対象者の違いがもたらす脳機能ネットワークの差異についての検証
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説明
<p>【はじめに、目的】</p> <p> 精神運動発達遅滞児 (以下、児)に対するリハビリテーション においては、児のモチベーションを引き出すことが重要とされ、その向上には適切な声かけが必要であると報告されている。こ れまで、コミュニケーション時の脳活動領域として、ウェルニッケ野等を中心とした言語領域が報告されているが、一方で声かけを行う他者の違いにより脳神経活動領域に違いを認めることも報告されている(山内ら,2023)。さらに前頭極や帯状回等 を中心とした共感に関わる脳内ネットワークも関与する。そのため、言語発達が未熟な児では、対象者の違いでコミュニケーションを遂行する脳機能処理過程に差異が生じており、双方の理解や共感のための戦略を変化させることが必要となる可能性が考えられる。そこで本研究の目的は、コミュニケーションを図る対象者の違いにより、児の脳内ネットワークがどのように変化するのかについて検証し、リハビリテーションにおけるコミュニケーション能力の基盤形成を図る上で必要な心的要素を明らかにすることを目的とした。 </p> <p>【方法】</p> <p> 対象は、当院の通院患者のうち、精神運動発達遅滞の診断を受けている者7名 (男児4名、女児3名:平均年齢4.9±2.9歳)を対象とした。声かけの条件は、母 (母条件)もしくはセラピスト (PT条件)が児に声かけを行う二条件とした。声かけ内容は両条件とも、カウント、名前等の日頃のリハビリの際に用いる内容とした。評価は児が声かけに反応している際の脳波活動を計測した。計測は、ポリメイトMP6000 (ミユキ技研社製)を用いて国際10-20法に準じ頭皮上脳波(19部位)からサンプリング 1024Hzにて導出した。解析として、バンドパスおよび眼電位除去処理によりノイズ処理された脳波データに対して脳機能イメージングフィルターeLORETA解析を行った。本解析にてICA周波数分析を実施し、脳機能ネットワークを算出同定した。 </p> <p>【結果】</p> <p> 解析の結果、PT条件では、前頭葉におけるβ波減衰、後頭葉におけるθ波減衰、頭頂葉におけるα波減衰、β波増幅の同期的なネットワーク活動を認めた。一方、母条件では、前頭葉におけるθ波、α波及びβ波増幅、頭頂葉におけるα波増幅の活動を認めた。 </p> <p>【考察】</p> <p> PT条件の結果から、児にとってのセラピストの声かけは、注意や集中を高めることを示す後頭葉θ波減衰および頭頂葉α波減衰と、注意や行動制御に関与する前頭葉β波減衰と頭頂葉β波増幅から「認知-行動制御」の協応的なネットワーク活動を高める可能性が示唆された。一方、母条件の結果は、児のリラックス状態を示す前頭葉α波活動増幅と、行動発現に向けた前頭葉β波活動増幅から「情動-実行機能」の協応的なネットワーク活動を高める可能性が示唆された。以上より、同言語内容による声かけにおいても、母親は児の情動や能動的な理学療法への取り組みをサポートする要素を持ち、セラピストは認知機能や運動能力を制御促進させるための要素を有する可能性が示唆された。声かけ時の脳内ネットワークを評価することは、児自身がコミュニケーションを通じて捉える他者への心的要素を捉えることを可能にし、効果的な理学療法への一助となる可能性を示唆した。 </p> <p>【倫理的配慮】</p> <p>本研究は、京都橘大学研究倫理委員会 (承認番号:20-39)の承諾を得て実施した。対象者とその保護者には書面と口頭にて十分に説明を行い、同意を得て実施した。</p>
収録刊行物
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- 小児理学療法学
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小児理学療法学 2 (Supplement_1), 111-111, 2024-03-31
一般社団法人 日本小児理学療法学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390299673817190144
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- ISSN
- 27586456
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用可