遺伝子治療を行った脊髄性筋萎縮症I型の症例の呼吸障害への対応

DOI
  • 味岡 祐美
    医療法人かがやき 総合在宅医療クリニック
  • 藪本 保
    医療法人かがやき 総合在宅医療クリニック
  • 藤井 浩史
    医療法人かがやき 総合在宅医療クリニック

抄録

<p>【はじめに、目的】</p> <p> 脊髄性筋萎縮症(以下SMA) とは,脊髄前角細胞の変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする常染色体劣性遺伝疾患である.近年,新規治療法が承認され,治療が早期であればあるほど運動機能に著しい向上を認めるとされているが,経過について不明な点も多い.本症例は生後2ヶ月で遺伝子治療を行い,その後の発達経過と呼吸障害への対応について報告する. </p> <p>【方法および症例報告】</p> <p> 本症例は現在1歳11ヶ月の女児で,在胎39週2日,2790gで出 生した.1ヶ月健診で筋緊張低下を指摘され,検査にてSMA I型(SMN1 0copy, SMN2 2copy)と診断された.生後1ヶ月26日にヌシネルセン,2ヶ月9日にオナセムノゲン アベパルボベクの治療が行われた.CHOP INTENDは治療前21点,治療後25点であった.2ヶ月22日に自宅退院し,奇異呼吸を認めるが room airで過ごし,食事は全量経口摂取可能であった.成長曲線は身長体重ともに-1SD~-2SD間で推移した.医療的ケアとして,必要時に口鼻腔吸引や酸素投与を行っていた. 退院後から週2回の頻度で発達促進を目的とした訪問理学療法を開始した.重力に抗した自発運動が少ない状態であったが,環境調整や補助する中で仰向けで足を持ち上げたり,腹臥位で頭部を持ち上げたりする経験を増やして胸郭の発育を促した. </p> <p>【結果および経過】</p> <p> 発達について,CHOP INTENDは生後10ヶ月41点,1歳4か月 46点,1歳7ヶ月54点,1歳5か月で実施した新版K式発達検査 (DQ)はP-M:算定不可,C-A:68,L-S:91,Total:57であった.1歳6ヶ月で寝返り可能,1歳8ヶ月で手支持座位可能,腹臥位で頭部挙上不可,定頸は不完全だが正中位でコントロール可能となった.1歳0ヶ月で側弯 (cobb角8度)と胸郭変形を認めたため,日常生活で使用する座位保持装置や腹臥位クッションを導入した. 呼吸について,1歳0ヶ月にCOVID-19に感染し,その後も感染や誤嚥性肺炎疑いによる呼吸障害が原因の入院を現在に至るまでに6回繰り返した.4回目以降の入院は1ヶ月以上と長期化した.換気障害や排痰困難があり,4回目の入院で夜間の非侵襲的陽圧換気療法 (以下NPPV)と機械による咳介助 (以下MI-E)が導入された. 入院中,食事の時に窒息したことや誤嚥性肺炎疑いがあったこともあり,呼吸状態が不安定な時には経管栄養も併用することがあった. </p> <p>【考察】</p> <p> 本症例は病型分類の中で最重度であるSMA I型だが座位が可能となり,遺伝子治療によって運動機能の向上を認めたと考えられた.介入当初より呼吸機能の維持・改善のために胸郭の発育促進や側弯予防を行ったが1歳の時点で側弯と胸郭変形を認めた.その後は寝返りなど自発的な動きが増えたこと,環境調整や腹臥位の導入によって著明な増悪なく維持されていたが,感染等の体調不良時には呼吸状態は容易に悪化した.在宅で NPPVやMI-Eが導入されて排痰促進や胸郭の拡張が可能となったことから,変形予防や呼吸筋疲労の軽減など予防的に早期から呼吸補助の導入を検討する必要がある可能性が示唆された.また,側弯・胸郭変形による呼吸状態の悪化を防ぐためにも早期に抗重力姿勢を促すとともに,適切な時期に姿勢保持具を検討していく必要があると考えられた. </p> <p>【倫理的配慮】</p> <p>症例および家族に対して,事前に目的と意義について十分に説明し,同意を得た.</p>

収録刊行物

  • 小児理学療法学

    小児理学療法学 2 (Supplement_1), 74-74, 2024-03-31

    一般社団法人 日本小児理学療法学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299673817251328
  • DOI
    10.60187/jjppt.2.supplement_1_74
  • ISSN
    27586456
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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