脊髄性筋萎縮症Ⅱ型患者における呼吸機能の長期経過

DOI
  • 福本 幹太
    国立病院機構北海道医療センター リハビリテーション部
  • 三浦 利彦
    国立病院機構北海道医療センター リハビリテーション部

抄録

<p>【はじめに、目的】</p> <p> 脊髄性筋萎縮症 (Spinal Muscular Atrophy,以下SMA)は,体幹や四肢の近位筋優位の筋萎縮と進行性筋力低下を示す下位運動ニューロン障害である.SMAⅡ型患者は幼児期に発症し,起立や歩行は獲得せず,発育不全による脊柱変形や呼吸不全などの合併症が問題となる.特に呼吸障害は,呼吸筋力低下や咳嗽機能低下などによる排痰困難などが挙げられ、呼吸器感染や呼吸不全の増悪が死因となるケースが多い.これらの呼吸障害に対して、NPPVの導入や呼吸理学療法が行われる.近年では, 疾患修飾薬が開発され、筋機能の改善が期待されている.今後、疾患修飾薬の投与による様々な効果について検討されることが 予想されるが,SMAⅡ型の呼吸機能の長期的経過についての報告は少ないのが現状である.本研究の目的は,SMAⅡ型患者の呼吸機能と咳機能を評価し、長期経過のデータを把握することとした. </p> <p>【方法】</p> <p> 本研究は,後方視的観察研究とした.対象は,当院およびNHO八雲病院の受診歴があるSMAⅡ型患者で,20歳未満の時点で初回評価を行っており,5年以上評価を行った者とした.評価項目は,各年齢の肺活量 (VC) ,咳のピークフロー (CPF) ,最大強制吸気量 (MIC) ,MICでのCPF (MIC-CPF) をカルテ記録より収集した. </p> <p>【結果】</p> <p> 5名 (男性4名,女性1名) が対象となった.対象者の初回評価時年齢の中央値 (最小値‒最大値) は14歳 (7‒17歳),追跡期間の中央値は17年 (10‒21年) ,最終評価時年齢の中央値は29歳 (25‒38歳) であった.VCは,1例 (症例A) のみ20歳以降も 2,000 ml以上を示し,他の4例は1,500 mlを下回り,13歳頃には既に500ml程度であった.CPFはVCと同様の傾向を示し,症例Aは20歳以降も270 L/min程度を保っていたが,他の4例は年齢による大きな変化はなく,100‒150 L/min程度で経過した. MICは,全例で年齢による変化は見られず,症例Aのみ 3,000 ml程度で経過し,3例は1,500 ml程度で経過,1例は 1,000 ml程度で経過した.MIC-CPFは全て,CPFよりも高い 値を示した.MICと同様に,年齢による増減の傾向は見られず,症例Aのみ350 L/minを超え,他の症例はそれぞれ205‒260 L/min,140‒220 L/min,110‒180 L/min,85‒135 L/min の 範囲で推移した.4例は追跡期間中に疾患修飾薬エブリスディ®の内服を開始したが,開始前後で全ての評価項目に明らかな変化はなかった. </p> <p>【考察】</p> <p> 本研究の結果は,幼少期から呼吸機能・咳機能が弱いことに加 えて,明らかなピークがなく,急激な低下もなかった.これは, SMAⅡ型は幼児期に発症し,歩行を獲得せず運動機能のピークを迎えることに起因する可能性がある.SMAは発育不全により,肋間筋の筋力低下や漏斗胸などの脊柱胸郭変形が生じ,さらに呼吸機能・咳機能が低下するとされるが,本研究では低下は見られなかった.これは,本研究の対象者は,NPPVが導入され,入院期間中の呼吸理学療法や習慣的な電動車椅子の乗車により,高い活動性を有することが呼吸機能の維持に寄与した可能性がある.また,エブリスディ®は2‒25歳のSMA II型患者の運動 機能改善への有効性は報告されているが,成人期の呼吸機能には明らかな有効性はないことが示唆された. </p> <p>【倫理的配慮】</p> <p> 本研究は,国立病院機構北海道医療センターの倫理審査委員会にて承認を得ている (承認番号:2023-5-2).</p>

収録刊行物

  • 小児理学療法学

    小児理学療法学 2 (Supplement_1), 77-77, 2024-03-31

    一般社団法人 日本小児理学療法学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299673817252864
  • DOI
    10.60187/jjppt.2.supplement_1_77
  • ISSN
    27586456
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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