ジストロフィン蛋白の完全欠損を呈したBecker型筋ジストロフィー患者の歩行可能期の理学療法と装具の検討

DOI
  • 広崎 蒼大
    札幌医科大学大学院 保健医療学研究科理学療法学・作業療法学専攻
  • 宮城島 沙織
    札幌医科大学付属病院 リハビリテーション部
  • 小塚 直樹
    札幌医科大学 保健医療学部理学療法学科理学療法学第一講座

抄録

<p>【はじめに、目的】</p> <p> Becker型筋ジストロフィー (以下,BMD)やDuchenne型筋ジストロフィー (以下,DMD)では,進行性の筋力低下から機能 障害が生じ,徐々に活動範囲が制限される.これらの疾患では,歩行不能となった時期より急速に体幹や四肢の変形・拘縮が進 行するため,リハビリテーション (以下,リハ)において歩行可能期間の延長が一つの目的となる.今回,ジストロフィン蛋白 の完全欠損を呈したBMD症例の歩行能力低下の過渡期において,歩行能力維持のため理学療法と装具療法について検討する. </p> <p>【症例】</p> <p> 14歳男児.9歳頃より右ふくらはぎの痛みと共に歩行が困難となり他院を受診したところ高CK血症を指摘され,筋生検検査のため当院が紹介された.遺伝子パネルで新規変異 (Int62 c.9224+2T>C hemi接合)が同定され,BMDの診断となった (ウエスタンブロット法では,ジストロフィン蛋白完全欠損).以後,当院リハ外来にて隔週でのフォローを継続した.既往症に自閉スペクトラム症がああり,BMIは26.11kg/m2と肥満傾向であった. </p> <p>【経過】</p> <p> 13歳8か月時点では,下肢,体幹に筋力低下があるが,上肢機能は保たれていた.膝関節伸展 (-15°/-10°)と足関節背屈 (5° /0°)の可動域制限,足関節内転 (50°/40°)の過可動性,軽度 の左右差を認めた.日常の移動手段は電動アシスト付きの車いすであるが独歩は可能で,歩容は内反足歩行で側方への動揺が大きく,全足底接地であった.6分間歩行距離は215mであった.理学療法介入では下肢・体幹のストレッチ,傾斜台,有酸素運動を行った.14歳2ヶ月では,歩行機能は保たれており, 6分 間歩行距離は210mだった.しかし,静止立位保持時に左踵部の接地が困難となった (荷重時,足関節背屈:5°/-5°).さらに,トゥクリアランスが低下,右立脚相での立脚側への動揺が増加した.そのため,立位アライメント・歩容の改善を目的として両側のタマラック継手付きプラスチック製短下肢装具を作成した.装具装着後は左の踵接地が出現し,歩行時のトゥクリアランスの向上と右側への動揺性の改善が見られた. </p> <p>【考察】</p> <p> 一般的なDMDでは,平均9歳で歩行困難,平均15歳で座位保持が困難となる.一方で,BMDではジストロフィン蛋白の変性により,DMDに比べて長期の経過をたどり,高齢になるまで歩行が自立するケースもある.本症例は,Int62の塩基置換によるBMDと診断され,ジストロフィン蛋白は完全欠損しているこ とから,BMD症例の中でも比較的早い経過をたどると予想した.歩行不能となる原因としては筋力低下のほかに下肢可動域制限 と左右差の拡大が挙げられ,DMD症患者における傾斜台を使用した下肢可動域制限の改善は歩行速度と歩幅を改善させるこ とが報告されている.本症例では,ストレッチに加えて傾斜台を用いた介入を行い,歩行機能を維持することが可能であった.しかし,立位や歩行時に左踵部接地困難を認め,それによる左右差の拡大や下肢可動域制限の進行は,歩行不能となる時期を早める可能性があり,装具作成に至った.アライメントや歩容の改善により,左右差の拡大・下肢の可動域に与える長期的な影響については,今後の経過を観察する必要がある. </p> <p>【倫理的配慮】</p> <p>本学会で発表するにあたり,症例の保護者に対し,個人が特定されるような情報は公開しないこと,個人の不利益になることはないこと,同意後も撤回可能であることを口頭と書面にて十分説明し,署名にて同意を得た. </p>

収録刊行物

  • 小児理学療法学

    小児理学療法学 2 (Supplement_1), 80-80, 2024-03-31

    一般社団法人 日本小児理学療法学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299673817255296
  • DOI
    10.60187/jjppt.2.supplement_1_80
  • ISSN
    27586456
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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