福島第一原子力発電所事故後の高齢者における被災自治体への帰還と心身機能の関連

DOI
  • 森山 信彰
    福島県立医科大学 医学部公衆衛生学講座
  • 伊東 尚美
    福島県立医科大学 医学部放射線健康管理学講座
  • 古山 綾子
    福島県立医科大学 健康増進センター
  • 佐藤 美佳
    福島県立医科大学 大学院医学研究科国際被ばく保健看護学講座
  • 坪倉 正治
    福島県立医科大学 医学部放射線健康管理学講座

抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p>2011年3月の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故 (以下、原発事故)の後、避難によって肥満、高血圧・糖尿病などの生活習慣病および新規要介護認定のリスクが高くなったとされている。本研究では、発災10年後の避難高齢者の新規要介護認定のリスク要因である心身機能を記述し、被災自治体への帰還者と自治体外に居住を続ける避難者で比較した。それにより、避難者に対する介護予防施策の検討に資することを目的とした。 </p><p>【方法】</p><p>原発事故後に全村民に避難指示が発出された福島県葛尾村の村民を対象とした。同村では避難指示が徐々に解除され帰還が可能となっているが、2023年1月現在、村内居住者の割合は35.5%に止まっている。65 歳以上の要介護認定を受けていない村民を対象に、2020年度の「基本チェックリスト」 (厚生労働省作成)を用い心身機能を評価した。判定基準に基づき運動機能、低栄養状態、口腔機能、閉じこもり、認知機能、うつの各項目別に事業対象者に該当するか調べ、帰還者 (以下、村内)と避難者 (以下、村外)で各項目の該当割合を2変量解析としてカイ二乗で、多変量解析として、基本属性 (年齢、性別、家族構成:独居か否か)を投入したロジスティック回帰分析で検討した。有意水準は5%とした。 </p><p>【結果】</p><p>対象者の85.6%にあたる337人 (74.6±7.0歳、女性 174名、村外212名)のデータを解析に用いた。村内に比べ村外で事業対象者の割合が高い項目は運動機能 (村外24.1%, 村内 12.8%;p=0.012)、うつ (村外31.6%, 村内20.8%;p=0.032)で あった。ロジスティック回帰分析の結果、村外居住は、運動機能 (オッズ比2.14, 95%信頼区間 1.16-3.95)、うつ (オッズ比 1.81, 95%信頼区間 1.07-3.07)の該当に関連した。 </p><p>【考察】</p><p>避難生活の長期化に伴い、コミュニティの喪失や生活環境の変化による身体活動量減少が生じ、運動機能低下のリスクが高くなった可能性がある。また、これまで報告されている長期避難に伴うメンタルヘルスへの悪影響と同様の結果が本研究でも示された。本研究の結果を受けて、運動を取り入れたサロンなどの交流の機会や家庭菜園の場を設けるなどして、避難高齢者の運動機能とメンタルヘルスの悪化を防ぐことが有益であると考えられる。対象者の心身機能の評価や向上のための個別性のある介入の実施など、理学療法士が地域において期待される役割は大きい。 </p><p>【倫理的配慮】</p><p>本研究は、福島県立医科大学倫理委員会の承認を得て行われた。 (倫理委員会整理番号:一般 2022-054)</p>

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