尿失禁・骨盤臓器脱に対する予防理学療法の可能性

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抄録

<p>更年期・老年期に起こりうる尿失禁・骨盤臓器脱の原因には、 閉経によるエストロゲンの減少も関与している。2014年国際女性機能学会 (ISSWSH:International Society for the Study of Women's Sexual Health)及び北米閉経学会 (NAMS:North American Menopause Society)により、新しく閉経関連尿路生殖器症候群 (Genitourinary Syndrome of Menopause:GSM)が提唱され、GSMに対する治療・研究が取り組まれるようになった。 GSMとは閉経期頃より出現する下部尿路症状と性器症状をいう。 40歳以上の1万人の女性を対象とした我が国の疫学調査では、何らかの症状がある人は44.9%。そのうち失禁は21.7%、頻尿は20.0%であったとしている (H Ohta,2020)。近年、GSM対策として雑誌・WEB等のメディアでも腟ケア・骨盤底筋トレーニングが度々取り上げられ、注目されている。しかし、骨盤底筋トレーニングに関しては、誤った方法で行われていることも少なくないため、症状が不変または憎悪してしまうケースもある。臨床上、更年期・老年期の尿失禁や骨盤臓器脱症例は変形性股関節を有していることをしばしば経験する。これは、股関節外旋筋群である内閉鎖筋が尿失禁予防に重要な骨盤底筋群の一つである腸骨尾骨筋と筋膜連結しており、内閉鎖筋が萎縮しているためである。また骨盤臓器脱のリスク因子に、胸椎・腰椎のアライメントが挙げられる。胸椎の後弯増加や腰椎の前弯減少により、骨盤臓器脱のリスクが上がる。これは脊柱のニュートラルな弯曲が減少することで、骨盤内臓器に対して上部からの腹腔内圧が繰り返しかかるために生じると考えられる。 従って更年期・高齢期以降に生じる骨盤底機能障害例に対応するためには、骨盤底機能だけでなく、胸腰椎のアライメントや股関節の機能向上を考慮した上で、症例に合わせて適切な運動指導を行う必要がある。今回は更年期・老年期で動作時の尿失禁症例、変形性股関節症と子宮脱を有する症例、骨盤臓器脱術後の尿漏れ症例を提示させていただき、臨床で実践している骨盤底機能の評価とトレーニングについて具体的に紹介する。 更年期以降で尿失禁や頻尿症状、性器症状等のGSMが出現した際に、早期に骨盤底機能の向上を図ることは重要である。早期に適切なトレーニングを行うことで、尿失禁や骨盤臓器脱などの骨盤底機能障害だけでなく、変形性関節症をはじめとする運動機能障害に関しても同時に予防・改善できると考える。</p><p>【倫理的配慮】</p><p>発表にあたり、患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し、同意を得た。 また、患者が特定されないよう配慮した。</p>

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