Timed up and go test におけるロコモティブシ ンドローム症例の下肢キネマティクスの特徴 - 傾向スコアマッチングによる比較 -

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抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p>超高齢社会の訪れとともに,ロコモティブシンドローム (ロコモ)の発症予防は本邦における重大な課題の一つである.Timed up and go test (TUG)は遂行時間により移動機能の低下した状態を評価することが可能であるが,キネマティクス解析を含めた評価が疾患等の特徴を検出する上でより有用であることが報告されている.我々はウェアラブルセンサによる歩行解析システム (H-Gaitシステム)の開発および臨床応用を進め,TUG中の下肢キネマティクスの評価を住民検診に導入することが可能となった.本研究では,傾向スコアマッチングを用いて,ロコモ症例におけるTUG中の下肢キネマティクスの特徴を明らかにし,ロコモの予防および治療介入の一助を得ることを目的とした. </p><p>【方法】</p><p>60歳以上の健康チェックに参加した地域住民140名 ( 年齢72.6±6.6歳)に対して,ロコモ度テストとウェアラブルセンサを用いたTUGを実施した.TUGは最大歩行速度にて実施し, TUG中の起立期および着座期における股関節,膝関節,足関節の最大角速度,歩行期の往路区間および復路区間における各関節の可動域をH-Gaitシステムを用いて算出した.ロコモ度テストによりロコモ群 (n=112)および非ロコモ群 (n=28)に分類した後,交絡因子 (年齢,性別,BMI,歩行速度)を用いた傾向スコアにより1対1のマッチングを行い,各群28名ずつ抽出した.両群のTUG中の下肢キネマティクスを対応のないt検定を用いて比較検討した.有意水準は5%とした. </p><p>【結果】</p><p>ロコモ群は非ロコモ群に比べて起立期の股関節伸展角速度が有意に低かった (p=0.019).また,歩行期の復路区間における膝関節可動域は,ロコモ群では非ロコモ群と比べて有意に小さかった (p=0.014). </p><p>【考察】</p><p>ロコモ症例の起立期における股関節伸展角速度の減少 は,股関節伸展に関わる筋機能の低下に起因する可能性が高い.一方,歩行期の復路区間では着座への移行のため,歩行速度を低下させながら制動する能力が必要となる.そのためロコモ症例における膝関節可動域の減少は,歩行時の膝関節制動機能低下による代償動作の可能性がある. </p><p>【結論】</p><p>ロコモ症例に対して起立期における股関節伸展角速度および歩行期の復路区間における膝関節可動域を増加させる介入が,ロコモの予防および改善に有効である可能性が示唆された. </p><p>【倫理的配慮】</p><p>本研究は北海道大学倫理委員会の承認 (承認番号:18-50)を得たうえで,被験者に対して十分に説明した後に書面で同意を得た.</p>

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