遷延性術後痛のリスクがある人工膝関節全置換術後患者に対する患者教育の効果
抄録
<p>【はじめに、目的】</p><p> 人工膝関節全置換術(TKA)後に10~34%の患者は遷延性術後痛 (chronic post-surgical pain; CPSP)を認める。これまでCPSPに対し様々な患者教育が実践されてきたが予防効果は示されていない。我々の研究グループでは、TKA前の変形性膝関節症(膝 OA)患者において、Central Sensitization Inventory(CSI)が26点以上かつPittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)が7点以上である場合、CPSPのリスクが高いことを明らかにした(Nishimoto, 2023)。本研究の目的は患者教育がCPSPに及ぼす影響をCPSPハイリスク患者に限定して明らかにすることであった。 </p><p>【方法】</p><p> 研究デザインは過去起点コホート研究である。対象は膝OAに 対し、片側TKAを施行されたCPSPハイリスク患者33名とした。 1名の理学療法士が通常の術後理学療法に加えて5セッション(1時間/回)の患者教育を術後11病日目まで行う患者教育群(n=12)と、通常の術後理学療法のみを行う対照群(n=21)に対象を分類した。患者教育の内容は、生物心理社会モデルに基づき、心理社会的要因や神経科学、睡眠、栄養、身体活動が含まれた。主要アウトカムは術後3ヶ月時点のCPSP予防の有無、副次アウトカムはKOOS 痛み、CSI、PSQI、Pain Catastrophizing Scale(PCS)、不安(Hospital Anxiety and Depression Scale; HADS-A)、抑うつ(HADS-D)の変化量とした。CPSP予防の有無は術前と術後3ヶ月のKOOS痛みの変化量が臨床的意義のある最小差の10を超えて、術後3ヶ月時点でGlobal Rating of Change scaleにて+1以上を示した場合にCPSP予防有とした。CPSP予防の有無をカイ2乗検定で2群間を比較した。副次アウトカムは対応のないt検定およびMann‒WhitneyのU検定を用いて2群間で比較した。さらに、患者教育群と対照群の治療必要数を算出した。 </p><p>【結果】</p><p> 患者教育群は対照群よりもCPSPを予防した割合が有意に高値であった(φ=0.352)。患者教育群は対照群よりもKOOS痛み (d=0.928)、PSQI(r=0.432)、PCS(d=1.508)の変化量が有意に高値であった。CSI、HADS-A、HADS-Dの変化量は2群間で有意差がなかった。治療必要数は患者教育群が1.2、対照群が2であった。 </p><p>【考察】</p><p> CPSPハイリスク患者に限定した場合、患者教育にはCPSPの予防効果がある可能性が示唆された。KOOS痛み、PCS、PSQIといった複数の要因を改善させたことがCPSPの予防に繋がった可能性がある。本研究の一般化可能性を高めるためには、より大規模なサンプルサイズでの検討が必要である。 </p><p>【倫理的配慮】</p><p> 本研究は埼玉医科大学総合医療センター倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2021-169)。対象者には紙面および口頭にて研究の目的・趣旨を説明し、署名にて研究への参加同意を得た。</p>
収録刊行物
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- 日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
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日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集 2.Suppl.No.1 (0), 224-224, 2024-03-31
日本予防理学療法学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390299673817485312
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- ISSN
- 27587983
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用可