理学療法中に理学療法士が陥りやすい不安全行動の調査:事故発生要因を心理学の視点でカテゴライズ分析

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  • 小林 昂将
    一般財団法人 多摩緑成会 緑成会病院 リハビリテーション部

抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p> 医療事故などの人間の失敗をヒューマンエラーという。心理学者ジェームズ・リーズンは安全を阻害する人間の決定や行動を不安全行動と呼び、4つに分類している。今回、公益財団法人日本医療機能評価機構 (以下JCQHC)に報告されている既存データを上述の不安全行動に基づきコーディングをおこなった。理学療法士 (以下PT)が陥りやすい不安全行動を探索し、事故予防を検討する基礎資料とすることを目的とする。 </p><p>【方法】</p><p> JCOQHCの医療事故情報収集等事業より検索をおこなう。報告事例区分は医療事故情報のみを選択、期間は2017年から2022年、事例の概要と発生場所と関連診療科は選択せず網羅的に検索をおこなった。当事者職種はPT、キーワードは「転倒」、全てを含めて全文検索をした。除外項目は、リハビリテーション以外の事故、暴言・暴力がある患者を対象とした事故、複数の PTが関与する事故、意識消失を含む事故とした。分析は発生要因に記載されている文章をヒューマン・コーディングを用いて不安全行動をカテゴライズする。カテゴライズする際は、発生要因や事故の背景要因、改善策に記載されている内容を参考にした。不安全行動の「スリップ」「ラプス」「ミステイク」「違反」の割合と、事故情報が不安全行動の視点で記載されているかを2段階で評価した。評価の解釈にはジェームズ・リーズン、ドナルド・ノーマンの心理作用の定義を参考とした。 </p><p>【結果】</p><p> 77件から除外基準となるものを除いた42件の医療事故情報を選抜した。選抜された事故情報におけるPTの不安全行動は「ミステイク」が100%であった。不安全行動の視点で記載されているものは9.52%、記載が十分でないものが90.48%であった。 </p><p>【考察】</p><p> リハビリテーション中にPTが引き起こす医療事故は意図的な行動のミステイクが多いことが示唆された。ミステイクは行動以 前の計画段階で間違いが起きている。計画段階の誤った意図は主に4つ挙げられるが、今回の医療事故情報では十分な記載や検討がなされていない。PTの教育内容に理学療法管理学が必修化され、リスク管理能力は益々、求められる時代となっている。今回の調査は様々な施設を対象としたため、事故情報の内容妥当性に限界がある。引き続き、心理学の視点で事故内容の記載や分析ができるようにPTにおける不安全行動の分析方法論を考えていきたい。 </p><p>【倫理的配慮】</p><p> 本研究は、公益財団法人日本医療機能評価機構に掲載されている情報を分析している。データの使用については利用規約に基づいて使用した。併せて公益財団法人日本医療機能評価機構問い合わせ担当者に口頭で確認し、了承を得た。データについて医療機関情報及び当事者、患者の個人情報は匿名化されてお り、特定されないように配慮した。</p>

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