腰痛に関する予防理学療法を肉眼解剖学の視点から考える

DOI
  • 布施 裕子
    医療法人敬愛会リハビリテーション天草病院 リハビリテーション部 埼玉医科大学 保険医療学部理学療法学科
  • 時田 幸之輔
    埼玉医科大学 保険医療学部理学療法学科
  • 小島 龍平
    埼玉医科大学 保険医療学部理学療法学科
  • 影山 幾男
    日本歯科大学 新潟生命歯学部解剖学第一講座
  • 相澤 幸夫
    日本歯科大学 新潟生命歯学部解剖学第一講座
  • 熊木 克治
    日本歯科大学 新潟生命歯学部解剖学第一講座
  • 平﨑 鋭矢
    京都大学 ヒト行動進化研究センター

抄録

<p>【緒言】</p><p>臨床経験の中で、疾患や重症度に関わらず腰痛を訴える患者は多いと感じる。ヒトは二足直立姿勢を獲得した中で腰椎が前彎し、腰痛の発生しやすい構造となった。胸腰椎の運動には固有背筋が関わる。固有背筋は脊髄神経後枝によって 支配され、外側枝は腸肋筋や最長筋、内側枝は横突棘筋群(半 棘筋、多裂筋、回旋筋)を支配する 。ヒトの固有背筋の構造、特に横突棘筋群は 二足直立位を獲得する過程で特殊化したと推測される。そこで四足歩行動物の構造と比較することで、ヒトの特徴を再考し、腰痛予防の理学療法を提案する。 </p><p>【方法】</p><p>ヒト(肉眼解剖学セミナー新潟)1体1側、ニホンザル(京都大学ヒト行動進化研究センター共同利用・共同研究)1体1側の液浸標本を使用した。これらの横突棘筋群と、脊髄神経後枝内側枝を肉眼解剖学的に詳細に観察した。記録は線描画にて行った。 </p><p>【結果】</p><p>ヒトでは、第2胸椎棘突起には直下から10個尾側までの各椎骨横突起より起始する計10本の筋束が付着した。尾側より起始した筋束ほど浅層を構成した。第3胸椎棘突起以下では、付着する筋束数は徐々に減少し、第11胸椎棘突起で最小となり 3本付着した。第12胸椎棘突起では5本筋束が付着し、以降再 び減少した。内側枝は、1つの椎骨棘突起に付着する筋束数に応じた筋枝を分岐した。内側枝の走行経路は、上位胸神経は半棘筋―多裂筋間を、下位胸神経より尾側では回旋筋の深層となった。ニホンザルの横突棘筋群は、第1胸椎棘突起に12本の筋束が付着した。より尾側で減少し、第7胸椎棘突起には3本の筋束が付着した。以降再び筋束数は増加し、第12胸椎棘突起に9本の筋束が付着した。内側枝は、1つの椎骨棘突起に付着する筋束数に応じた筋枝を分岐した。内側枝の走行経路は上位胸神経では半棘筋―多裂筋間を、下位胸神経より尾側では回旋筋の深層を走行した。 </p><p>【考察】</p><p>腰部では、1分節の内側枝が支配する横突棘筋群に着目すると、椎骨数の違いからニホンザルよりもヒトの方が飛び越す椎骨数は少ない。ヒトでは、1分節の内側枝の分布が狭いと予測され、疼痛は局在的に発生しやすいと考えられる。その為、体幹の粗大的な運動よりも、各分節の分離運動を行う方が腰痛予防に効果的であると考えられる。 </p><p>【結論】</p><p>ヒトの腰部は、各分節の分離運動の獲得により疼痛を予防することができる。 </p><p>【倫理的配慮】</p><p>ヒトは、日本歯科大学新潟生命歯学部解剖学第一講座の医学教育と研究の為に供された実習体を使用した。これらの所見の使用にあたっては、日本歯科大学新潟生命歯学部解剖学第一講座、影山幾男教授の許可を得ており、「死体解剖保存法」と「医学および歯学教育のための献体に関する法律」に準拠し調査を行った。ニホンザルの使用にあたり京都大学ヒト行動進化研究センター利用・共同研究拠点専門委員会の審査を受け、承認されている。</p>

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