ディフィシル菌へのシグナルとして働く腸内コハク酸の重要性

DOI
  • 池田 寛菜
    奈良女子大学大学院人間文化総合科学研究科

抄録

芽胞形成性のディフィシル菌(Clostridioides difficile: CD)は,日和見性の院内下痢症を引き起こす.この感染症は,抗生物質による治療後も15〜35%と高い確率で再発することが問題となっている.その一因として,CDがバイオフィルム(biofilm: BF)を形成することで消化管内での残存性を高めることが挙げられる.CDのBF形成は,最小発育阻止濃度以下の抗生物質や,二次胆汁酸塩によって誘発されることが知られているが,近年他の因子の関与も考えられている.その具体例として今回焦点をあてるのがコハク酸である.腸内には,BacteroidesNegativicutesなどの腸内細菌による代謝産物としてコハク酸が存在し,細菌感染症に対する免疫応答の調整に潜在的に関わっているとされる.腸内での高濃度のコハク酸は腸管細胞や他の細菌に対して有毒であるが,通常はCDを含む細菌種がコハク酸を生育に用いることで低濃度に保たれている.しかし,炎症性腸疾患や抗生物質投与によって腸内細菌叢の多様性が低下することで,コハク酸産生が上昇し,腸内コハク酸の高濃度化を招く場合がある.こうした状況下でコハク酸がCDに与える影響については,上記の栄養源としての利用以外はほとんど知られていなかった.本稿ではこの点に関し,コハク酸が腸内シグナルとしてCDのBF形成を誘発することを示した報告を紹介する.<br>なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.<br>1) Auria E. et al., Biofilm, 5, 100125(2023).<br>2) Røder H. L. et al., NPJ Biofilms Microbiomes, 7, 78(2021).<br>3) Kasagaki S. et al., Curr. Res. Microb. Sci., 3, 100130(2022).<br>4) Miyaue S. et al., Front. Microbiol., 9, 1396(2018).

収録刊行物

  • ファルマシア

    ファルマシア 60 (4), 346-346, 2024

    公益社団法人 日本薬学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299673818239360
  • DOI
    10.14894/faruawpsj.60.4_346
  • ISSN
    21897026
    00148601
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ