微結晶凝集体形成を伴う高分子結晶化過程

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タイトル別名
  • Polymer Crystallization Process with Small Crystalline Aggregation

抄録

<p>多くの物質では液体をゆっくりと冷やすと過冷却状態を経たのちに結晶化が進行する.この結晶化機構はとても身近な現象で,古くより研究がなされてきており,これまで結晶化機構は古典的核生成理論の枠組みで核生成・成長機構として議論されてきた.ところが最近,水やタンパク質,コロイド系などの様々な物質群で前駆体の形成を伴う二段階の結晶化機構が検討されている.それでは低分子に比べて比較的複雑なトポロジー的特徴を持つ高分子の結晶化の場合はどのようになっているのだろうか?</p><p>高分子は低分子物質とは異なり,そのトポロジー的特徴により三次元的に完全な結晶構造を取ることができず,薄い板状のラメラ構造が積層する階層構造を持つことが知られている.これまでの高分子の結晶化機構はローリッツェン(Lauritzen)とホフマン(Hoffman)により提出された古典的核生成理論を基にした二次核生成・成長のモデルで説明されてきた.このモデルはラメラ厚まで引き延ばされた高分子鎖の一部(ステム)が結晶成長表面に二次核を形成し,その二次核の生成速度が律速となるモデルである.結晶成長速度の温度依存性は二次核の活性化エネルギーを考慮することで得られる.</p><p>このモデルは多くの実験結果,特に過冷却度が小さい場合の実験結果をよく説明してきた.しかしながら,過冷却度が大きい場合にはこのモデルでは説明できない現象が発現することも知られている.我々はこれまでも,いくつかの高分子で,結晶ラメラ厚や成長速度の結晶化温度依存性から,過冷却度が小さいときには従来の二次核生成成長過程で結晶化が進行するが,過冷却度が大きくなっていくと,準安定相を経由する結晶化過程に切り替わることを明らかにしてきた.さらに過冷却度が大きいガラス転移温度付近になると,どのような現象が起こるのであろうか?</p><p>最近,我々はいくつかの高分子物質に対して行ったガラス転移温度付近での結晶化の実験で,小角X線散乱(SAXS)測定により結晶化初期に数百nm程度の密度ゆらぎが生じることを見いだした.SAXSの結果を定量的に解析することにより,そのゆらぎの起源が直径数nm程度のノジュール結晶がランダムな方位を持って形成する凝集体の相関によるものであることを明らかにした.</p><p>さらに,Kolmogorov–Johonson–Mehl–Avrami(KJMA)理論から導かれるドメインの構造因子の時間発展をSAXSの結果に適用することで,凝集体の成長様式が均一核生成・成長型であることを明らかにし,凝集体の成長速度と核生成頻度の温度依存性を得た.</p><p>この凝集体の成長速度は,驚くべきことに高温で観測される球晶の成長速度の低温への外挿曲線と一致することが明らかになった.つまり本研究の結果は,大きな過冷却度での結晶化過程はノジュール結晶が凝集するという意味で,単純な二次核生成ではないことを示唆しているにもかかわらず,その成長キネティクスは二次核生成成長で説明できるという興味深い実験結果を示している.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 79 (4), 175-180, 2024-04-05

    一般社団法人 日本物理学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299705003854592
  • DOI
    10.11316/butsuri.79.4_175
  • ISSN
    24238872
    00290181
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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