(エントリー)カルサイト合成実験における初生包有物の形成過程

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タイトル別名
  • (entry) Formation process of primary inclusions based on synthesis experiments of calcite
  • <b>★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★</b>

抄録

<p>【はじめに】  結晶成長時に周囲の流体が結晶中の空隙に閉じ込められたものを流体包有物とよぶ.流体包有物のなかでも結晶の成長中に形成されたものを初生包有物とよぶ.初生包有物はその結晶ができたときの流体の密度や化学成分を記録している(佐脇,2003).しかし初生包有物の形成メカニズムは明らかになっていない.また,実験的に初生包有物を形成する研究例も多くない.柳澤,後藤田(2011)は,水熱実験によってカルサイト結晶を育成する実験において,より大きな結晶を得るために昇温と徐冷を繰り返す2段階徐冷を行った.この実験で形成された結晶中に流体包有物が形成されていた.本研究では柳澤,後藤田(2011)の手法をベースに初生包有物の形成条件を明らかにすることを目的とする. 【研究手法】  本実験では内容積が5.0 Lと27.0 mLの2種類のオートクレーブを用いた.それぞれを大型オートクレーブ,小型クレーブと呼び区別する.  硝酸アンモニウム水溶液を媒質に炭酸カルシウム粉末を加え,密閉されたテフロン内槽の大型オートクレーブにて気液二相状態で昇温する.180℃で12時間保持したあとに2.5℃/時で徐冷する.これを1段階徐冷とよぶ.これに加えて昇温と徐冷をもう一度繰り返す操作を2段階徐冷とよぶ. また,小型オートクレーブを用いたクエンチ実験ではテフロン容器内に1段階徐冷で形成された結晶と硝酸アンモニウム水溶液を加え,2段階目の徐冷と同様に昇温,高温保持ののち徐冷を行った. 上記の2つのプロセスにおいて撹拌の有無を変更し,各温度段階にてクエンチを行い,結晶の状態を光学顕微鏡および走査型顕微鏡で観察した. 【結果と考察】   2段階徐冷により合成された結晶に初生包有物が含まれることを確認した. 2段階徐冷によって形成された結晶の粒径は1段階徐冷のものより大きく,初生包有物は2段階目の徐冷によってオーバーグロースした層中に形成されていた. この2段階徐冷の高温状態の間に撹拌をしない場合には初生包有物は含まれなかった.これは高温時の結晶表面の溶解状態が包有物の有無に関係することを示唆する.そこで2段階徐冷の各段階でクエンチし,その表面を電子顕微鏡で観察したところ,結晶の表面に凹部が生じている様子が観察された.そこから温度が下がるにつれ,結晶が層状に積み重なって成長している様子が見られた.  初生包有物の形成には結晶表面の溶解によって深い溝や凹部が生じることが必要であると考えられる.おそらく熱水が再昇温もしくは減圧によって溶解度が変化し,結晶に凹部を形成し,それが初生包有物の起点となると考えられる.浅く小さな凹部は結晶成長が進む際にカバーされるが,深く大きな凹部は結晶成長によってカバーすることができないため,そこを残して周囲が層成長するために,相対的に凹部が深く大きくなりこれが包有物になるものと考えられる. 【文献】国立大学法人高知大学. 柳澤和道・坂口有人・阪口秀. カルサイト単結晶の製造方法. WO2012/108473. 2014-7-3. 佐脇貴幸(2003) 流体包有物 ―その基礎と最近の研究動向―. 岩石鉱物科学, 32, 23-41. 柳澤和道・後藤田智美(2011) 科学研究費補助金基盤研究B 多鉱岩の弾性変形におけるカルサイト応力計の開発 分担研究「微細なカルサイト単結晶の水熱育成」 2010年度成果報告書</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299760188544384
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2023.0_258
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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