(エントリー)赤石山地北部・三波川帯の変成温度解析と熱モデリングによる糸魚川–静岡構造線周辺の地質分布復元

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • (entry) Reconstruction of the geological distribution around the Itoigawa–Shizuoka Tectonic Line by metamorphic thermal analysis and thermal modeling for the Sanbagawa Belt in the northern part of the Akaishi Mountains area, central Japan
  • <b>★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★</b>

抄録

<p>[はじめに]大断層周辺における断層運動前の地質分布の復元は,断層運動の総変位量推定や広域テクトニクス究明の鍵となる.断層運動前から存在していた基盤岩は,断層を境に分断されているが,断層を挟んで対比可能な地質マーカーを見出すことができれば地質分布復元が可能となり,これは断層運動の総変位量推定にも直結する.本研究では,糸魚川–静岡構造線(ISTL)周辺に基盤岩として露出する変成岩類をケーススタディーに,変成温度を地質マーカーに利用した大断層周辺の地質分布復元を試みた.[地質概要・研究方針]ISTL南に南北方向で狭長に分布する赤石山地北部・三波川帯の白亜紀変成岩類(三波川変成岩類)は,中央構造線(MTL)とともにISTLにより分断されている.一方,ISTL北の基盤岩は新第三紀以降の地質に広く覆われるが,小規模に露出する横河川変成岩類は,長年,三波川変成岩類に帰属する可能性が指摘されてきた.特に近年,Mori et al.(2023)は,横河川変成岩類の炭質物ラマン温度計による変成温度条件と砕屑性ジルコンU–Pb年代測定による原岩年代が,三波川変成岩類に類似することを示し,両者が元々同一の地質体であったことを確実なものにした.一方で,Mori et al.(2023)の三波川変成岩類との比較は大局的なものであり,ISTL周辺の正確な地質分布の復元には,横河川変成岩類に近い赤石山地北部の検討が重要である.また,同地域北端のISTLに沿っては,木舟花崗閃緑岩体(木舟岩体)が約1.5×2 km程度の規模で貫入して三波川変成岩類に接触変成作用を与えており(e.g. 牧本ほか,1996),この熱影響の検討も必要となる.そこで本研究では,赤石山地北部の三波川帯を対象として,炭質物ラマン温度計(Kouketsu et al.,2014)により広域かつ詳細に変成温度構造を明らかにするとともに,横河川変成岩類との対応関係に基づくISTL活動前の地質分布復元,および,貫入熱モデリングとの比較による復元結果の妥当性検証を行った.[炭質物ラマン温度計による変成温度解析]炭質物ラマン温度計用の試料として,地質構造(片理面の走向)に直交する東西ルートと接触変成作用に伴う熱構造(黒雲母アイソグラッド)に直交する南北ルートで,計19地点から泥質岩を採取した.見積もられた変成温度は,地域全体で約310~440 ºCを示す.大局的には,東西ルートでは西端のMTLに近づくにつれて,南北ルートでは北端の木舟岩体に近づくにつれて,いずれも系統的な温度上昇を示す.また,岩相の特徴や地質構造との関係性も考慮すると,東西ルートは木舟岩体貫入以前,南北ルートは木舟岩体貫入時(接触変成作用)の熱履歴を記録していると考えられる.[ISTL北・横河川変成岩類との対応関係と地質分布復元]東西ルートの東から西への温度上昇は,ISTL北方の横河川変成岩類においても認められる.また,両地域の温度構造の空間的な対応関係に基づけば,ISTLに沿って水平方向に約13 kmの地質分布のズレが生じていたことを示すとともに,この変位量を基に,ISTL活動前の地質分布を復元すると,木舟岩体の分布位置はISTL北において貫入する下諏訪岩体に合致し,元々一つの“木舟–下諏訪岩体”であったことを示唆する.[貫入熱モデリングに基づく復元結果の検証]木舟岩体の接触変成作用を記録した南北ルートに対しては,一次元の解析解を用いた球状貫入熱モデリングとのフィッティングを行い,貫入時のマグマ温度と貫入岩体規模の関係を求めた.これら変成岩解析とは独立して,木舟岩体の全岩化学組成を入力値とした熱力学計算から得られたマグマ温度を考慮すると,貫入岩体の直径は約6~10 kmに制約される.これは,前述の“木舟–下諏訪岩体”の分布規模(直径約8 km)と整合的であり,東西ルートの変成岩解析に基づく地質分布の復元結果の妥当性を示す.そして,ISTL断層運動の水平方向での総変位量は約13 kmであるとともに,その活動開始時期は下諏訪岩体の貫入時期である約10 Ma(大平ほか,1999)より後であったと考えることができる. 本研究は,炭質物ラマン温度計を用いた基盤岩の変成温度解析が,大断層周辺の地質分布復元に有用であるとともに,断層活動履歴究明へのアプローチに対する新しい切り口となることを提示する.[引用文献]Kouketsu et al., 2014, IAR, 23, 33–50;牧本ほか, 1996, 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅);Mori et al., 2023, JMPS, 118, 221215;大平ほか, 1999, 地学団体研究会第53回総会(長野)シンポジウム・ポスター要旨集, 53, 113–114.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299760188559360
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2023.0_289
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ