[招待講演]宝石サンゴの持続的利用に向けた地球科学的研究

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  • [Invited] Geobiochemical research for sustainable use of precious corals
  • <b>【ハイライト講演】</b>

抄録

<p>刺胞動物門花虫綱八放サンゴ亜綱サンゴ科に属する宝石サンゴは、地中海周辺、ハワイやミッドウェー周辺とともに、台湾から日本周辺の海域が世界の三大産地とされている。日本では、黒潮流域の水深70~400 mで生息することが知られており、アカサンゴ(Corallium japonicum),モモイロサンゴ(Pleurocorallium elatius),シロサンゴ(P. konojoi)の3種が、明治初期より漁獲されている。時には、金よりも高値で取引されることもあり、乱獲や密漁の対象となるため、近年、国際的にも資源の枯渇が懸念される状況にある。宝石サンゴの研究は、地中海沖のベニサンゴ(Corallium rubrum)で先進的に進められてきたものの、近年、日本近海の種でもさまざまな側面での精力的な研究が進められつつある。本発表では、日本周辺の宝石サンゴに関する最新動向をダイジェストで紹介するとともに、我々が取り組んできた地球科学的側面での研究(Okumura et al., 2021)を紹介する。 宝石サンゴは、樹状の骨格表面に分布するポリプが生きた状態で漁獲されるものと、死後、骨格だけになった化石状態で漁獲されるものに大別され、流通している。日本近海では、漁業黎明期から化石状態のものが多く漁獲されていたとの記録もあり、“化石資源”としての側面のあるユニークな漁獲物である。我々は、宝石サンゴの資源量把握の第一歩として、日本有数の宝石サンゴの漁場である高知県足摺岬沖に焦点をあて、50を越える化石状態の試料に対して放射性炭素年代測定を行った。その結果、最も古い年代はcal BC 5,617-5488であった。また、紀元前から1950年までの幅広い生息時代が得られ、試料全体の85%は、漁業が本格的に開始されたとされる1871年より前に死滅したものであることが明らかとなった。この結果は、少なくとも、この漁場では、多くの化石骨格は、自然死や捕食、環境悪化などの自然の要因で死滅することで形成したものであり、伝統的な底引き漁による破壊で死滅したものではないと示唆された。また、今回の結果は、大陸棚地形上に位置するこの漁場では、最終氷期を経て現在のような海洋環境が整った後、少なくとも約7500年もの間、宝石サンゴが継続して生息をし、化石資源を蓄積してきたことが示された。今後、分布密度や寿命といった宝石サンゴの生理生態学的な情報を収集できれば、資源の蓄積プロセスや化石を含めた総資源量を推定することが可能になる。化石資源的な側面を持つ宝石サンゴの持続的利用を考える上では、地球科学的・堆積学的視点が重要な役割を果たすといえる。Okumura et al. (2021) Radiocarbon, 63(1), 195-212.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299760188743680
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2023.0_81
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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