「地域特性」を踏まえた学校防災の推進に災害地理学が果たす役割

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タイトル別名
  • Contribution of Disaster Geography to Promote School Disaster Risk Reduction Tailored to “Local Characteristics”

抄録

<p>1.「地域特性」に応じた学校防災推進の政策的要請</p><p>本報告は,学校防災において近年,地域特性の理解が政策的に重視される中,地理学がそれにどう貢献できるかを議論し,人文地理学や地誌学的視点も含めた災害地理学の実践的役割を考える。学校における防災教育と防災管理の両面(以下,学校防災)を司る学校保健安全法に基づき国は「学校安全推進計画」を策定し,現在その第3次の5ヶ年計画が2022年度から進行している。この計画中,「地域」という語が従前の計画以上に頻出している。「地域の災害リスクを踏まえた実践的な防災教育・訓練」の実施,「地域ごとのリスクを踏まえた危機管理マニュアルの見直し」などが推進方策で列挙される。学校が立地する地域の条件(素因)の把握に努め,対処計画の実効性を高めること,「地域の災害リスクや災害の種類に応じた」教育を実施することなどを主要指標に掲げている。むろん学校は,津々浦々に存在し,多様な自然環境や社会環境に立地していることから,画一的な学校防災を求めるよりも,「当該学校の実情に応じて」(同法),体制を構築する必要性を謳う法の従来の趣旨に沿ったものである。だが,学校防災の推進において「地域特性を踏まえた」取組みが明示的に強調され始めたのは,とくに大川小津波訴訟判決の確定以降とみる。</p><p></p><p>2.学校防災の担い手の苦悩と支援の現状</p><p>同判決は,学校の立地や学区における顕著な災害リスクを踏まえた備えの不備を厳しく指摘した。「ハザードマップの批判的検討」などを求める内容も含まれ,多数の学校管理職から不安の声が出ている(小田ほか2020)。「地域特性」の把握の意義や手段,方法もはっきりと示されていない。地理総合を担当する教員の経験や力量の課題とも通じるが,異動で転々とする教職員が勤務校の所在地域を理解するための力が一層問われることとなった。そこで,地理学関係者らによる教員研修等の支援が展開されてきた(村山ほか2021)。重ねるハザードマップや,地理院地図を活用した地域の自然環境とハザード理解の実践が拡がりつつある。地理総合の開始や,コロナ対応で進展したGIGAスクールによるデジタル環境の整備は追い風となっている。研修だけでなく,実際,山形市では,防災マニュアルの冒頭に「学校と学区の現状」として地形や顕著なハザードを記載し,これらの把握と理解を前提とした学校防災の取組みも進められてきた(村山・松多2021)。</p><p></p><p>3.災害地理学による多面的な支援に向けて</p><p>これらの実践は,読図力向上を通じたハザード理解増進による地域特性の把握が中心である。政策文書でも「地域の災害リスク」を「地域特性」と捉える記述がみられ狙いには合致する。しかし,災害誘因と土地条件(自然素因)との作用といった自然地理学的な視点に留まらず,地域の社会素因にも着目して地域を理解する人文地理学的なアプローチも重要である。くしくも,本年1月に発生した能登半島地震による被災は,耐震性の低い伝統的な家屋が点在する,高齢化が進む北陸の半島地域において起きた災害としてその「地域的・社会的」背景がメディアでも報道され,社会素因への着眼の必要性を広く再認識させた。それぞれの地域の人口,財政力,ソーシャルキャピタル,住宅,産業,交通網,ライフラインなどのインフラも含めた地域的特徴,地域が抱える社会的脆弱性,誰(何)がどれだけハザードに曝されているのか,地域が従来災害とどう向き合い,再起したのか,などが地域特性を知り,備えを考える重要な要素となる。さらに,地誌学的な取組みに関わって,自然災害伝承碑や市町村史等から災害履歴を把握したり,今昔マップを含む各種地図から地域の変容を理解することも学校を支える地理学の実践となる。多面的な「地域特性」の把握を通じた備えの視点,必要性,方法を教育委員会等とも連携しながら,学校防災の現場に説いていくことも,地域に根ざした地理学研究者が果たせる貢献と言える。地理教育分野で培われた手法等も援用して,実践に対する評価(効果検証)や見直しにも寄与できる。それには,幅広い地理学研究者の参画が不可欠である。各地の研究者による学校防災への関わりを把握し,実践を共有することも有効であり,災害対応委がその役目の一端を担えるのではないか。学校防災への関与と試行錯誤を通じて,翻って地理学関係者自らが災害地理学の多面性を自覚し,それを発展させていく議論の深化にも期待できよう。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299859706163840
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_104
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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