福岡市博多区吉塚市場リトルアジアマーケットの商店街振興に対する経営者の評価

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  • The Evaluation of Yoshiduka Little Asia Market in Fukuoka City for the Promotion of the Shopping District by Shop Managements in the Shopping District

抄録

<p>Ⅰ.はじめに 昨今,多くの商店街で空き店舗の増加や商店街そのものの縮小といった問題がみられる。商店街の衰退を食い止めるべく,あらゆる方法で商店街振興が図られてきた。しかし,国土交通省(2019)の報告では,中心市街地活性化が周辺との連携不足により,十分波及していないという例が確認されている1)。 さらに,商店街の発達段階に応じたマネジメントが必要だと指摘されており,適切な商店街振興を進めるにあたり,発達段階の把握が必要である。ここでは,依存と競争に関連した調整メカニズムは,依存と競争が適切に作動する「拡大均衡モード」と適切に作動していない「縮小均衡モード」の2つの状態があることが言われている2)。 以上のことから,本調査では,福岡市博多区吉塚地区にある吉塚市場リトルアジアマーケット(以下,吉塚市場)を事例に,商店街及びその周辺の商店経営者らへの聞き取り調査から,商店街振興に対する評価を明らかにし,商店街の盛衰を上記2つの状態に照らし合わせて,現在の商店街の発達段階を捉える。Ⅱ.調査方法Ⅱ-1.調査地の概況 吉塚市場の公式HP3)や現地での聞き取り調査によると,吉塚市場は戦前の闇市から商店街へと発展してきた。最盛期には約150店まで規模を拡大したが,2019年ごろには,店舗数は約30店にまで減少し,商店街に含まれる地域も縮小した。2020年に商店街の組合長と付近の御寺の住職らが申請した経済産業省の「商店街活性化・観光消費創出事業」に採択されたことを契機に,「吉塚市場リトルアジアマーケット」として再オープンした。その後は,アジアの料理を提供する飲食店が増加し,様々なメディアで取り上げられる商店街になった。Ⅱ-2.調査方法 吉塚市場の運営事務局や商店街組合,商店街内外の店舗経営者に対して,吉塚市場の商店街振興による評価や各店舗への影響などの聞き取り調査を行った。聞き取り調査件数は34件であり,うち,6件は商店街周辺の店舗経営者である。Ⅲ.調査結果 聞き取り調査の結果は属性による偏りがあり,商店街振興企画者と商店街内の店舗経営者と商店街周辺の店舗経営者の3つに大別できた。Ⅲ-1.企画者への聞き取り結果 吉塚リトルアジアプロジェクトの企画者である商店街組合長は,吉塚市場を現在の規模より大きく広げることも視野に入れ,吉塚市場の企画を考えているとの見解だった。ただ,吉塚市場に今後携わっていく若者が主導することが望ましく,自身はその支援に努めたいとのことである。 Ⅲ-2.商店街内の店舗経営者への聞き取り結果 吉塚市場の取組を肯定する人の多くは吉塚市場再オープン後に出店した経営者である。肯定の理由として,他地域から移転し,吉塚市場に商機を見出していることや,市場名に「アジア」と冠している割に,アジア関連の店が少ないため,企画者に新しい店を招致してほしいという声が聞かれた。現地調査から,商店街全体のうちアジア関連の店は31店中8店と,1/3以下に留まっていることが分かった。一方で,否定的な意見は,再オープン前から出店している経営者等から聞かれた。その理由として,再オープン後の市場の雰囲気に馴染めない常連客が減少したことや,市場を取材するメディアはアジア関連の店ばかり特集し,再オープン以前からある店にとって商売の妨げになっていることなどが聞かれた。Ⅲ-3.商店街周辺の店舗経営者への聞き取り結果 吉塚市場周辺の店舗は吉塚市場の組合に以前加盟していることが多かった。組合を脱退した理由が組合費の使途が不透明であることへの不信感や,十分な顧客を抱えているため,市場が再オープンしたからとは言え,再び組合に加盟することはないという意見がほとんどであった。また,吉塚市場の組合に加盟したことがない店舗への気聞き取り調査では吉塚市場の商店街振興へ関心をもっている店舗はみられなかった。Ⅲ-4.商店街の現在の発達段階 依存と競争に関連した縮小均衡モードは,市場の縮小や競合などの外部要因と店舗の合理的な経営の縮小という内部要因から規定される2)。吉塚市場では,外部要因は確認されるが,それによる事業意欲の低下は見られない。内部要因においても,アジア関連の店が新規参入するだけでなく,以前から出店している店舗においても,同業種集積を背景とする周辺商品の拡充があり,一概に経営の縮小がみられると言い難い。Ⅳ.まとめ 本調査で,商店街の経営者らの商店街振興に対する評価を聞き取り,多文化共生による商店街振興の地域特有の問題点を見出した。以下に結果をまとめる。1)吉塚市場の再オープンによる盛り上がりは市場内で温度差が見られた。商店街周辺への活性化の波及は見られなかった。2)吉塚市場の商店街としての発達段階は,縮小均衡モードと言えなかったが,現在の取組を継続的に行っていく必要がある。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299859706182656
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_150
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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