地域政党はどのように他地域へ進出するのか

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  • How do regional parties advance into new regions?

抄録

<p>1. はじめに 政党の勢力や組織を捉えるためには二つのベクトルを考える必要がある.一つ目はどのレベルの政府・議会で活動を行うか,二つ目はどの地域で選挙に出るかである.こういった観点から選挙政治を見た時に注目に値するのは,地域政党である.地域政党は特定の地域の地方議会で結成されることが多いが,国政選挙に候補者を出したり,他地域に進出したりすることもある.地域政党の選挙での強さ・イデオロギーなどの規定要因に関する知見は蓄積されているが,地域政党の他地域への拡大を扱った研究は乏しい.特定の地域に限定された支持を背景として成立する地域政党は,いかにして拠点とする地域の外に進出を試みるのだろうか.本報告では,大阪維新の会とそれを母体とする国政政党(以下「維新の会」と呼ぶ)を事例として,地域政党が拠点とする地域の外へ進出するにあたってどのような地域を選ぶのか,どのような政党から票を奪うのか,どのような政策を訴えるのかについて検討する.</p><p>2. 研究方法 まず,各選挙における候補者の擁立状況を都道府県別に集計し可視化することで,維新の会がどの地域に進出したのかを明らかにする.国スケールでは衆議院選挙,地方スケールでは都道府県・市区町村の議会選挙を対象とする.また維新の会がどのような特徴を持つ選挙区に候補者を送ったのかを検討する.衆議院選挙の小選挙区を維新の会候補者の有無で二つのグループに分け,それぞれのグループの社会経済的特徴を比較する.小選挙区の社会経済的変数のデータには,西澤明氏作成・提供の国勢調査の小選挙区別集計1)を用いる.次に,維新の会が全国でどのような政党から票を奪ったのかを検討する.対象とする選挙は衆議院選挙比例代表である.都道府県別の主要政党の絶対得票率の変化(当該選挙の得票率-前回選挙の得票率)を算出し,得票率の変化同士の相関行列を作成することで,政党間の票の移動を検討する.最後に,維新の会が主張する政策とその変化に注目する.衆議院選挙の候補者を対象としたアンケート調査(東京大学谷口研究室・朝日新聞社共同調査)2)を用いて,各政党がどの政策分野を重視したのかを示す指標を算出する.また衆議院選挙の選挙公報を収集し,候補者ごとに「地方分権」「議員定数・報酬の削減」「教育無償化」の記載の有無を確認した.</p><p>3. 結果と考察 分析の結果,維新の会は大阪府に隣接する府県はもちろん,全国の大都市圏に多くの候補者を擁立する傾向を示していた.維新の会は大阪府で既に成功した地域と似た特徴を持つ地域に積極的に候補者を立てていたことも明らかになった.また,維新の会は新たに進出した地域で,民主党系の政党から票を獲得している可能性が高い.前回の選挙で棄権した有権者から票を得ている可能性も高い.さらに,維新の会は「地方分権」「政治・行政改革」「教育・子育て」といった政策分野を重視していた.国政に進出した直後は多くの候補者が地方分権を主張していたが,次第に地方分権の重要性は低下し,代わりに政治改革と教育無償化を訴えるようになっていた.報告では,分析結果を詳細に紹介するとともに,維新の会と海外の地域政党の事例の共通点と相違点について議論し,地域政党の他地域への進出という戦略の背景についても考察する.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299859706186624
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_159
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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