高等学校「地理総合」における生成AIを活用した授業

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書誌事項

タイトル別名
  • Utilizing Generative AI for 'Geography' Classes in Senior High School
  • Aiming to Building Practices That Encourage Learners to Generate Ideas
  • 学習者のアイデア創発を促す実践構築に向けて

抄録

<p>1.生成AIの隆盛と地理教育</p><p> 生成AI元年と言われる2023年,7月には文部科学省による学校向けのガイドラインが作成され,10月にはパイロット校が公表された。</p><p> 今後,生成AIが教育に大きな影響を与えることが予想される中で,これまで地理教育から何がしかの発信が世に出されることはほとんどなかったと言ってよいだろう。この事態に,発表者は強い危機感を抱くとともに,ファーストペンギンとして生成AIを活用した普段使いの授業を広く紹介し,トライ&エラーの記録をオープンシェアしていく決意を固めた。</p><p></p><p>2.生成AIを活用した授業の概要</p><p> 本発表では,2023年9・10月に,高校1年の「地理総合(「B 国際理解と国際協力」の中項目「(2)地球的課題と国際協力」)」で実施した2つの授業を通して,学習者の創発を促すChatGPT活用の可能性について報告する。創発とは,2つアイデアから目的に対して1+1=3以上の効果を発揮するように組み合わせアップグレードさせる発想のことである(田中 2023)。</p><p> なお,本校における生成AIの活用は,教職員に対する制限はないものの,学習者に対しては保護者の同意を得る準備を進めている。そのため,授業での生成AIの活用は,教師主導で行われている。</p><p>(1)架空の国家の教授言語政策</p><p> 学習者は,黒崎・栗田(2016)などを参考に,架空の開発途上国における貧困層の子どもの教育水準が低くなる理由について,問題の構造をマルチスケールに把握した。その上で,教授言語政策について最良の策を導き出すために,3人の有識者としてロールプレイ・ディスカッションを重ね,互いの指摘を踏まえながら,それぞれの意見のメリット・デメリットを整理した。従来であれば,ディスカッションを踏まえてグループごとに政策を提案し合い,授業を閉じるところである。</p><p>本実践では,政策に対するメリット・デメリットを学習者が整理した後に,ChatGPTに先の有識者会議を再現させた。その会議に,各有識者の意見をメタ認知した学習者が4人目の有識者として参加し,ChatGPTからの質問に返答したり,あるいは意見を述べたりしながら,4者間で合意形成をはかりつつ意見をさらに磨き上げ,政策の立案を目指した。</p><p>(2)先進国の都市の再開発計画</p><p> 学習者は,山本(2013)などを参考に,バンクーバーのダウンタウン・イーストサイド地区における人口の都心回帰の背景と実態ならびに,都心居住の諸課題を把握した。その上で,現地で実際に起きている都市問題を解決するため,ソーシャルミックスを前提とする再開発プランを構想した。従来であれば,Googleクラスルームで課題を配布回収し,提案に対するフィードバックを行ない,グループごとに計画を発表し合い,授業を閉じるところである。GIGAスクール構想下でのICT導入により,作業効率は格段に改善された(教育あるある探検隊編 2023)。ただ,全体で60を超えるグループのアイデアに対して,次時までに一つひとつコメントを入れることは,発表者にとってもはや限界に近く,仮にそれをなせたとしてもサステナブルとは決して言える状況にはない。</p><p> 本実践では,ChatGPTに都市政策の専門家としてフィードバックとマイルストーンを提供させ,それを受けて,学習者はアイデアをさらに練り直し,計画の提案を目指した。</p><p></p><p>3.生成AI活用による学習者のアイデア創発</p><p> 発表者は,プロンプトエンジニアリングのスキル獲得段階にあるため,ChatGPTのポテンシャルを十分引き出せていないことが考えられる上に,教師主導ということもあり,個別最適化の実現や,ディスカッションやフィードバックを重ねたりするに至っていないなど,本実践には改善の余地が多分に存在するだろう。しかしながら,アウトプットの質的な変容,アンケート結果の分析などから,生成AIが学習者の創発を促す強力なパートナーとなり得るのではないかと,現状では考えている。今後は,学習者主体の活用フェーズでの実践構築に取り組んでいく。</p><p></p><p>参考文献</p><p>教育あるある探検隊編 2023.『アナログ&デジタル―先生のお仕事365日』学事出版.</p><p>黒崎 卓,栗田 匡相2016.『ストーリーで学ぶ開発経済学―途上国の暮らしを考える』有斐閣.</p><p>田中善将2023. ChatGPTを活用して子ども達のメタ認知を育む.先端教育48:62-65.</p><p>山本薫子 2013.北米都市におけるジェントリフィケーションの展開―バンクーバー・ダウンタウンイーストサイド地区の現在.10+1 Web site.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299859706284032
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_238
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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