パキスタン, シムシャール村におけるトロフィーハンティングおよび野生動物資源の持続可能性に関する研究

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タイトル別名
  • A study of sustainability of trophy hunting and wildlife resources in Shimshal, Pakistan

抄録

<p>はじめに トロフィーハンティングとは、野生草食動物の角や皮を得ることを目的とし、銃で仕留める狩猟であり、観光資源として魅力的な景観がない地域においても野生動物資源から経済的利益が得られるという利点がある。最近ではエコツーリズムを補完する手段としてトロフィーハンティングを導入する国も多い。一方、トロフィーハンティングは狩猟対象種の個体数減少と、肉食動物による家畜の捕食割合の増加に繋がる危険性を有している (Rashid et al., 2020)。パキスタン北部では、絶滅危惧種であるユキヒョウによる家畜捕食が地元住民とユキヒョウとの紛争を生んでいる(Anwar et al., 2011)。少数民族のワヒ族が住むシムシャール村では、2003年以降、都市部からのアクセスが拡大し国内外からの観光客が増加している。しかし、環境や経済の大きな変容が見込まれるシムシャール村では野生動物資源に関する研究は限られている。そこで本研究では、トロフィーハンティングとユキヒョウに関する村民の認識を明らかにすることを目的とした。村民の認識 2022年6月、シムシャール村にてインタビュー調査を実施し、アンケート調査では158件の回答を得た。リモートのアンケート調査では2023年5月に23件、7月に104件、12月に33件の回答を得た。シムシャール村の村外居住者と村の住民との認識と比較した結果、村の住民はユキヒョウが絶滅危惧種であると認知している人の割合が著しく低く、回答者の約半数に留まった。また「野生草食動物と同様に狩猟するべきだ」「ユキヒョウが減少すれば村は繁栄する」といったユキヒョウに対するネガティブな意見が見られた。これに基づき、トロフィーハンティングが野生動物の個体数や家畜に与えうる影響や、ユキヒョウの重要性を啓蒙する機会を村民に対して導入することを提案した。衛星画像による植生分析 植生分布を可視化して野生生物の生息可能な場所を把握するため、Sentinel-2画像を使用してシムシャール村の狩猟エリアにおける最新の土地被覆状況を明らかにした。また、村の住民の中には、家畜の餌資源確保のために灌漑の導入を望む意見が複数見られたため、それに対する考察としてSentinel-2画像の解析にあたってはNDVIの指標を用いた。調査地の最大値は0.69を示したが、高い値を持つ場所は非常に限られ断片的であり、ほとんどの領域は0.4以下を示した。家畜の放牧地と野生草食動物の生息地は重複しており、本調査地においては両者の餌となる植生が不十分である可能性がある。灌漑の導入に関しては、植生環境の人為的な改変に繋がるため、今後研究の余地がある。終わりに シムシャール村の組織であるShimshal Nature Trustによると、トロフィーハンティングのライセンス発行数は2007年の開始以降、増加傾向にあり、収入増加の狙いがあると言える。過剰狩猟は持続不能なトロフィーハンティングに繋がりうる一方、野生動物保護を最優先にしたライセンス数削減は、2003年以降に観光業に力を入れ始めた村の経済を縮小させる。観光資源による長期的な収入確保のためには、野生動物の個体数調査を適切な手法で長期間行い、信頼できるデータを公開したうえで科学的根拠に基づいてライセンス発行数を決めることが望ましいと示唆された。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299859706304384
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_283
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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