グローバリゼーションとブータン農村の変容

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タイトル別名
  • Globalization and the Change of Rural Area in Bhutan
  • A Case of Bartsham gewog in Eastern Bhutan
  • ―ブータン東部のバルツァム郡を事例に―

抄録

<p>Ⅰ.研究の目的本研究では、近年ブータンから海外へのトランスナショナルな留学・出稼ぎ・移住が増加していることを踏まえ、現代ブータン東部の農村を対象に世帯ごとの人口移動を分析することで、かつて「秘境」と呼ばれたブータンにおいてグローバリゼーションがいかに進展しているのかを考察する。 Ⅱ.研究の背景グローバリゼーションとは、地球規模でヒト・モノ・カネ・情報・価値観の交流や移動が行われ、それにより世界の統合が深まることを意味する。グローバリゼーションの側面に、ネオ・リベラリズムの進展が挙げられる。ネオ・リベラリズムの進展は、人のグローバルな移動にあたる国際人口移動やその政策にもみられ、小井土(2017)は、伝統的な移民国および非移民国における「選別的移民政策」の傾向を指摘している。国際移民研究では移民の社会統合に焦点が集まりがちだが、こうした移民政策に対し送り出し国側にどのような現象が生じているのかを分析することも重要である。 Ⅲ.ブータンの概要と現状 本研究の対象国ブータン王国は、ヒマラヤ山脈の南麓に位置し、急峻な山々に囲まれた人口70万人弱の小国である。近年では、ブータンから、オーストラリアやカナダ、アメリカなどの欧米や、クェートやUAEなどの中東へトランスナショナルな留学・出稼ぎ・移住が増加している。最も顕著なのがオーストラリアであり、2022 年 7 月からの 1年間でブータンの全人口の約 2%に相当する 1万5000人以上がオーストラリアへのビザを取得した(The Bhutanese,2023年10月28日)。ブータンの中核を担う高学歴エリート層が大量に出国しており、公務員は約 1500 名、教師は 350 名以上が離職し、その多くが私費留学生およびその配偶者としてオーストラリアに移住したとされる。2017年の国勢調査によるとブータンでは6割以上が農村部に居住しており、上述した海外への人口移動は本人や家族の多くがブータン農村出身であると考えられる。ブータン農村の近代化やグローバル化について先行研究では、インドからの農産物の輸入、冬虫夏草やマツタケなど林産物の輸出、外国人観光客の流入、学校教育での英語の普及、通信網や交通網の発達などに言及されている。一方、人口移動に関する研究は、その多くが農村都市移住の研究で海外への人口流出を明らかにした研究はほとんど見られない。 Ⅳ. バルツァム郡での世帯調査 そこで本研究では、ブータン東部タシガン県に位置するバルツァム郡を対象に、2023年2月から3月にかけて集落の世帯調査と聞き取り調査を行い、その実態を調査した。バルツァム郡の行政村数は5,集落数は30である。世帯調査では対象とするD集落の37世帯のデータを分析した。対象の世帯の合計人数360人のうち、6割を超える220人が他出していた。他出者数の内訳は、バルツァム郡内に13人、タシガン県内に11人、ブータン内の他県に180人(そのうち首都ティンプー県は80人)、ブータン国外に16人であった。国外の内訳はオーストラリアが10人と最も多く、次いでアメリカ合衆国3人、ベトナム、インド、アラブ首長国連邦がそれぞれ1人ずつであった。 Ⅴ. 考察 本研究では、調査結果から、ブータン農村からは従来言及されてきた都市への人口流出のみならず、海外への人口流出もみられることが分かった。今後の課題として、移民政策との関連性やトランスナショナルな社会空間の解明などが挙げられる。 文献小井土彰宏編 2017. 移民受入の国際社会学―選別メカニズムの比較分析. 名古屋大学出版会Tenzing Lamsang.〈https://thebhutanese.bt/australia-rush-accelerates-even-more-in-last-three-months/〉(2023年10月28日)</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299859706315264
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_307
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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