別府市における大学立地と賃貸アパート

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  • University campus location and student apartments in Beppu City

抄録

<p>■研究の目的 本報告では,大学の新規立地が地方都市の都市空間に及ぼすインパクトについて,ステューデンティフィケーションに関する議論を念頭におきながら,大分県別府市の実態について述べる。具体的には,学生向けを含む賃貸不動産物件の情報を整理し,その地理的な分布の特徴を都市構造や大学立地に伴う国際学生(留学生)の増加との関連から明らかにする。この取り組みは,相対的に大きな人口増加を地方都市にもたらす施設の立地が,都市構造を変容させるプロセスの一断面の把握を企図したものである。</p><p>■背景と意義 多国籍企業の分工場立地への関心に代表されるように,ある地域へと域外に本拠を持つ主体が新規に立地するインパクトについて,経済地理学は大きな関心を寄せてきた。その立地による投入産出関係や雇用を通じた直接的な地域経済への「効果」だけでなく,そこからのスピンオフや新たな就業機会が当該地域から若年層が流出することを防いだり,域外から新たに流入したりすることへの地元からの「期待」も,そこにはあるだろう。そして,その「期待」は産業政策担当者とも共有され,その誘致や受入が積極的になされることになる。ただし,グローバルな競争の下において新規立地した分工場が継続的に立地し続けるためには,それが保持する機能を常態的に変化させなければならず,そのスピードに当該地域は翻弄されることになる。</p><p> もちろんこうした図式を,そのまま地方都市に新規立地した大学に当てはめることはできないだろう。工場の働き手と大学で学ぶ学生とでは,そもそも日常的な行動や,それを形づくる時間地理学的な制約も大きく異なっている。また,「地域連携」が強く求められるようになったとはいえ,「期待」とは裏腹に,これまで大学や学生は地域との密接な関係を形成することなく存続したり生活したりすることも可能であった。そのせいか,大学の新規立地や撤退は,当該地域にいかなるインパクトを与え,また,それら相互の関係は時間的経過のなかでいかように変質していくのかについての知見は,立地論という分野に限っても十分に蓄積されているとは言えないように思われる。知的財産権や技術の移転・応用,さらに地域イノベーションシステムといった観点から大きな「期待」の寄せられる大学とは異なって,「人文科学」や「社会科学」を主とするいわゆる「文系大学」とそれが立地する地域との関係に関して,ことさら議論の必要性を指摘できるように思われる。</p><p> こうした点において,中澤(2017)が取り上げる「ステューデンティフィケーション」の持つ分析視角は,地域と学生との関係に焦点を絞り込むものであるとはいえ,大学立地が地域に及ぼすインパクトを積極的に「問う」ものであろう。ただし,人口減少と都市のスポンジ化や縮退が進む日本の地方都市を念頭においた場合,「学生」の主体的な行動の重なりが結果として他者を空間的に排除していくヨーロッパやオセアニアの状況とは異なることを,当然ながら予期できる。本報告の意義は,その違いの一端を,特に学生向け賃貸アパートの立地という側面から具体的に示すところにある。</p><p>■データと学生向け賃貸アパートの分布 大学の新規立地に伴う学生の増加は,「学生向け賃貸アパート」などへの需要を生み,それは通学圏内での学生向けアパートの新規建設や既存物件の用途転換などの対応を生み出す。本報告では主に大分県で事業を展開する不動産会社が「学生向け賃貸物件」を紹介するウェブサイトに掲載した情報について,別府市のものを取り上げ分析する。物件情報は,2023年1月から6月までに数回に分けて取得したもので,平均して約920件の物件情報を持つ。そのうち,物件の間取り,賃料,共益費,築年数,緯度経度の地理情報などの詳細な情報を取得することのできた2月および6月のデータを主に用いて分析した。当該データからは,「留学生可」や「二人居住可」の有無を把握でき,別府市で2000年に開学したX大学の「留学生」の需要に対応しようとする物件の特徴への理解を助ける。あわせて国勢調査の小地域集計のデータをもとに自己組織化マップ(SOM)の手法を用いることで物件の所在する地区を類型化し,別府市の都市構造の特徴を把握した。</p><p> 「留学生可」の物件は,X大学の開学以前から立地するY大学の周辺と,単独世帯の居住者比率が高くロードサイド型の商業施設が立地する国道10号線沿いの地区に分布する。一方で,アパートの部屋をシェアすることも可能な「二人居住可」の物件は,Y大学の周辺を避けるかたちで市街地に広く分布する。特に分析対象の物件の半数以上はX大学開学以前に建設されたもので,都市のスポンジ化を踏まえた「スチューデンティフィケーション」に関する議論が必要であろう。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299859706320768
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_319
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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