納骨堂の建立と反対運動

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書誌事項

タイトル別名
  • Construction of the Charnel House and Protest Movement
  • Focusing on a Case Study in Osaka City
  • 大阪市の事例を中心に

抄録

<p>1. はじめに</p><p> 「家」制度の解体や人口動態の変動,都市的生活様式の拡大等の重層的な社会変化に伴い,今日の葬送や墓制に変化が表れていることは,社会学を中心とした多くの既往研究が示すところである.そのなかでも,世代間の継承を必要としない納骨堂は,継承が前提の従来型の墓に代わって,現在では受容されつつあり,都市部では郊外・農村部に比べ開設数が多い.一方で,墓地や納骨堂は,日本では一般にNIMBY施設として捉えられ,こうした「墓の都心回帰」(槇村 2022)は,周辺住民の嫌悪感情による問題化のリスクをはらんでいる.実際に2015年以降,納骨堂の建設に対する周辺住民らによる反対運動が全国各地で散見されるようになっている.そこで本研究は,納骨堂の建設とそれに対する住民反対運動が生じた事例を取り上げ,納骨堂の立地過程および立地状況を分析し,問題化する場合としない場合とで,いかなる差異があるのかを考察すると同時に,納骨堂に反対する周辺住民は,どのような抵抗戦略をとっているのかを明らかにすることを目的とする.</p><p>2. 研究対象と調査手法</p><p> 本研究では,これまでに納骨堂の建立に対して周辺住民による対立が生じた6件の事例を取り上げ,それらの共通項から問題化の要因を考察した.加えて,そのうち大阪府大阪市淀川区における納骨堂に対する周辺住民の反対運動を調査した.本事例では,2017年に大阪市淀川区の住宅街に大規模なビル型納骨堂の建設計画が立ち上がり,建立計画当初から住民による反対運動が生じた.一部の周辺住民らは,納骨堂の経営許可を出した大阪市を相手取って訴訟を起こし,2024年現在も裁判が続いている.本調査では,当該の納骨堂の運営事業者と反対運動を行う住民への聞き取りを行ない,問題化の要因を空間的に検討するとともに住民側でどのような抵抗が行われているのか調査した.</p><p>3. 結果と考察</p><p> 納骨堂の建立が,問題化する場合と問題化しない場合とを比較すると,前者では販売や管理の業務委託というかたちで民間企業が経営に関与し,かつ,納骨堂が寺院本堂の建つ境内地とは異なる飛び地に立地する傾向がみられた.業務委託される納骨堂は,建設規模が大きいうえ,民間企業の資本投入がみられ,資金回収の点から利用者を広く募る必要がある.そして,納骨堂の利用においては,広範な受益圏を形成する一方,受苦圏は納骨堂の寺檀関係のない周辺に局地化し,こうした空間的な受益/受苦の「分離」が問題化の一要因であると推察される.</p><p> 大阪市淀川区における周辺住民の反対運動は,他地域での納骨堂の反対運動とも協力関係にあり,反対運動の経験に基づいた有効な抵抗手法等の情報が、ある地域から他地域へと共有されていることがわかった.そして,協力関係による納骨堂への抵抗戦略のみならず,一地域での反対運動の結果が他地域での建設計画に影響を及ぼしていることが確認され,これらの反対運動は一地域を超えた社会運動として捉えられる.問題化する要因をさらに詳しく検討するには,寺院と住民側との信頼関係や,立地する地区の地域的特徴といった諸要素も考慮する必要があると思われる.</p><p>参考文献 </p><p>槇村久子 2022. 近代公共墓地の成立と変遷――大阪の都市史としての墓地. 山田慎也・土居浩編『無縁社会の葬儀と墓――死者との過去・現在・未来』. 吉川弘文館152–177.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390299859706334848
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_55
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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