イベルメクチンのCOVID-19に対する臨床試験の世界的動向

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  • Global trends in clinical studies of ivermectin in COVID-19

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<p>2019年11月に中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症は,原因不明の肺炎として警鐘が鳴らされていながら対応が遅れ,2020年1月にWHOが中国への渡航等について注意を促した後にようやく世界で警戒されるようになったが,中国政府が発生状況を正確に公表しなかったために,世界の防疫体制の構築が遅れ,今日の悲惨な感染状況を迎えている。WHOが新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染症をCOVID-19と名付け,2020年3月11日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に相当すると判断してパンデミック宣言を行ってから1年が経過した。世界の220か国/地域の1億1,500万人以上が罹患し,250万人以上が死亡したパンデミックに対して,ようやくワクチンによる伝播の抑制が始まり,近い将来に制御できる可能性が出てきた。しかしながら,ワクチンの供給には限界があり,先進国による自国民への接種必要量の獲得競争となっており,途上国にはWHOが一定量の確保に努めているが,世界に行き渡りCOVID-19が制御可能となるまでには,相当な時間が必要であると予測されている。</p><p>一方,COVID-19治療薬に関しては,早い時期から検討が始まり,クロロキン,ヒドロキシクロロキン,ロピナビル/リトナビル配合剤,トシリズマブ,インターフェロンβ1などによる治療効果が期待されたが,何れも効果が限定的であるか効果は無いことが判明している。レミデシビルは重症患者において回復期間を30%ほど改善するが,最も感染者数が多い軽症から中等症の患者は対象外である。ステロイド薬のデキサメタゾンが炎症症状の緩和に有効であるが,顕著な炎症症状が認められない軽症から中等症の患者への使用は推奨されていない。現在は,在宅又は宿泊療養施設において療養している軽症患者及び入院治療中の中等症患者に対して,使用可能な治療薬は皆無の状態である。治療薬の無い疾患ほど心細いものは無い。</p><p>世界各国でCOVID-19患者が急増し死亡者が増加する状況下に,ヒドロキシクロロキンやドキシサイクリン,アジスロマイシンなどが治療目的で使用されながら無効であり,有効な治療法が模索されていた中で,オーストラリアの研究グループからin vitro の感染実験系でイベルメクチンがSARS-CoV-2の複製を抑制することが報告された。イベルメクチンは,1987年から河川盲目症とリンパ性フィラリア症の制御と疥癬の治療に広範に使用されており,極めて安全性が高く良く知られた廉価な医薬品であるため,中南米の諸国で早速COVID-19の治療と予防に使用され始めた。パンデミックが宣言された1カ月後には,イラク,エジプト,イラン,インドなどの国々から米国の治験登録機関であるClinicalTrials.govやWHOの治験登録プラットフォームへの臨床試験の登録が相次いで行われるようになった。世界におけるイベルメクチンのCOVID-19に対する最初の臨床試験成績の公表は,米国南フロリダの4つの関連病院で行われた観察試験であり,イベルメクチン投与群173例の死亡率が15.0%であって,非投与群107例の25.2%に比して有意(p=0.03)に優れているというものであった。この試験成績は,2020年6月6日にmedRxivプレプリントとして公表されたことから,論文審査を受けていないとの理由で価値が認められていなかったが,審査を経て,10月13日には権威ある専門誌Chestに掲載されている。</p><p>その後,世界各国で臨床試験が実施されており,2021年1月30日現在で治験登録機関に登録されている試験は27か国の91件に上り,治験は第2相試験27件,第3相試験43件,観察試験17件となっており,そのうちの80件が治療目的,11件が濃厚接触者や医療従事者の発症予防目的の試験となっている。2月27日までに,登録と非登録を合せて42件の対象患者約1万5千名の臨床試験の成績が報告されており,それらの成績のバイアス要因を除外したメタ分析により,早期治療では83%,後期治療で51%,発症予防で89%の改善が認められており,イベルメクチンの有用性が確認されている。メタ分析であるので,これら42件の試験成績からの総合判断が誤る確率は,4兆分の1にまで低下したと推測されている。その他に,別個に行われた2件のメタ分析でも,同様にイベルメクチンの有用性が示されており,それらの結論がWHOや米国のFDAなどに提示されており,イベルメクチンのCOVID-19治療への適応拡大要望が提出されている。我が国においても,北里大学が医師主導型の第2相臨床試験を2020年9月より実施しているが,イベルメクチン群120名,プラセボ群120名の合計240名を組み入れる治験プロトコルの進展が遅く,このままではCOVID-19が収束するまでに治験が完了するか懸念されている。製薬企業が行う治験と異なり,資金と人手の不足が治験進行の遅れる主要因であり,各方面に支援を求めている状況である。イベルメクチンが30年以上前からneglected tropical diseases(NTD;顧みられない熱帯病)の制御のために,現在までに37億ドーズ以上がアフリカや中南米で使用されてきており,先進国では疥癬の治療薬として高齢者介護施設などで広範に使用されてきているので,製薬企業としては,今更,COVID-19の適応を取得するための開発研究を行っても,その資金を回収できるだけの収益が見込めず,適応拡大を行う意志が無い。</p><p>今般のパンデミックでは,非常事態宣言を発出するような国家の安全保障上の重要な局面であるのに,その治療薬が存在せず,ようやく,既に承認を得て広範に使用されているイベルメクチンが,可能性がある候補医薬品と判明していながら,その適応拡大を製薬企業が行わず,医薬品の開発には不慣れな大学や医療機関が医師主導型で小規模な治験を行っている現状は,極めて不本意な状況であると思われる。</p><p>本総説は,世界の医師・研究者がイベルメクチンをCOVID-19に対する治療薬・発症予防薬として適応拡大することを,熱心に目指している状況を解説することにより,各方面の理解と支援を得て,一日も早くイベルメクチンがCOVID-19への対応に活用されるようになることを希望して著述したものである。</p>

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