私的主体が発行する「貨幣」の規制に関する覚書

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  • ―ステーブルコインに関する規制を中心に

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説明

<p> 2022年の資金決済法改正により,「電子決済手段」の制度が創設された。これは,いわゆるステーブルコインに関する規制をわが国に導入するものである。これを受けて,実務では,「特定信託受益権」(資金決済法2条5項3号に規定する電子決済手段)の形式でステーブルコインを組成する取組みが検討されている。ところで,特定信託受益権については,資金決済法上,ステーブルコインの裏付資産(特定信託受益権に係る信託財産)の全部を要求払預貯金により管理することが要求されている。これは,ステーブルコインの発行者に,相対的に安全性の高い要求払預貯金をステーブルコインの裏付資産とすることを義務付けるとともに,これをステーブルコイン発行者の固有財産から法的に分離(倒産隔離)された信託財産とすることにより,ステーブルコインに係る払戻(償還)義務の履行可能性を確保し,その価値の安定性を確保する趣旨のものであると理解することができる。しかし,このような規制のあり方に対しては,大きく2つの観点から疑問を呈することができる。第1は,要求払預貯金による裏付けを要求することの必要性である。理論上は,国債・公債やコマーシャル・ペーパー(CP)のような,低リスクかつ高流動性の資産を裏付資産として許容することも考えられるのではないか,という疑問がありうる。第2は,要求払預貯金による裏付けを要求することの十分性である。銀行といえども破綻のおそれが皆無というわけではなく,要求払預貯金を裏付資産とすることで満足して良いのか,とりわけ,ステーブルコインの破綻が金融システムにシステミックな影響を及ぼすほどまでに成長した場合を想定すると,裏付資産のあり方についてさらなる検討を要するのではないか,という疑問がありうる。本稿は,イングランド銀行が2021年6月に公表した『新たな形態のデジタル貨幣(New forms of digital money)』と題するディスカッション・ペーパーにおいて示された4つの規制モデルを取り上げ,それぞれの意義と課題について検討を加えるという方法により,ステーブルコインの規制のあり方に関する上記の疑問に一定の回答を提示するとともに,より一般的に,私的主体が発行する「貨幣」の価値の安定性を確保するための規制のあり方についての基本的な論点や考え方を整理するものである。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390300755745902464
  • DOI
    10.57520/prifr.156.0_19
  • ISSN
    27584860
    09125892
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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