梵文『法華経』における動詞<i>grah</i>の二つの現在語幹について

  • 笠松 直
    Associate Professor, National Institute of Technology, Sendai College, Hirose, PhD

書誌事項

タイトル別名
  • Two Present Stems of the Root <i>grah</i> in the <i>Saddharmapuṇḍarīka-sūtra</i>
  • Two Present Stems of the Root grah in the Saddharmapundarika-sutra

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説明

<p> 動詞grah「つかむ」の現在語幹は第IX類による.梵文『法華経』校訂本によれば,散文部分では第IX類語形で一貫する.韻文部分にもSaddhp II 62d gr̥hṇīyuの如く第IX類語形が見られるが,幹母音幹(°)gr̥hṇ-a-による語形が多数存する:Saddhp III 91d parigr̥hṇathā,VII 56d pratigr̥hṇa.二つの現在語幹の関係は如何に説明されようか.</p><p> 古写本に徴すれば,Kashg XIX: 359b7m gr̥hṇatiやSaddhp III 106c pratigr̥hyaに対するGilg B: 218,27 parigr̥hṇiのように,韻文部分では幹母音幹活用がより普遍的であったと考えられる.散文部分でもKashg VII: 169b2p pratigr̥hṇatuに見るように,本来は同様であったものと考えられる.この状況はKashg XXV: 427b7p pratigr̥hṇa(⇔KN XXIV: 446,4 pratigr̥hāṇa)のように,以降の諸章でも同様であったと思しい.</p><p> KN p.487, n.7所引の語形Kashg XXVIII: 458b2 udgr̥hṇaは,第XXVII章散文の増広部分でもなお幹母音幹活用が機能していた事を示す.他方カシュガル写本は,羅什訳に対応のない第V章後半部分で韻文・散文双方で古典文法的な第IX類活用を示す:Kashg 132b5–6p gr̥hṇīyād;137b1m gr̥hṇāti.</p><p> 即ち原『法華経』段階では,第XXVII章の増広部分に至るまで言語的な一貫性が維持され,grahの幹母音幹活用は一貫して生産的であったこと,第V章後半の増広は恐らく一段,言語層を異にした時期によるものであろうことが推定される.</p>

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