山梨県における図書館と書店の連携

  • 吉井 潤
    図書館総合研究所/都留文大・非常勤

書誌事項

タイトル別名
  • Cooperation between Libraries and Bookstores in Yamanashi Prefecture

説明

<p>1.研究の背景</p><p> 2024年4月30日東京新聞朝刊3面によると,「全国1,741市区町村のうち書店が1店舗もない自治体が2024年3月時点で482市町村に増え,全体の27.7%に上ることが出版文化産業振興財団の調査で分かった」とある.年々,書店数は減少傾向である.昨年は,著者,出版社,書店と図書館との共存・共栄による新たな価値創造を推進するために,「書店・図書館等関係者における対話の場」が設置された.また,経済産業省が書店振興に向けたプロジェクトチームを3月に設置した.</p><p> 読書環境の整備として,山梨県では,平成24年度に山梨県立図書館が甲府駅北口に移転開館するのに伴い館長に就任した阿刀田高氏(現名誉館長)が提唱した「親しい人に本を贈る習慣の定着を」という考えに基づき,平成26年度から「やまなし読書活動促進事業」を実施している.この事業は主に①贈りたい本大賞(県立図書館),②やま読ブックフェア(生涯学習課)③やま読ラリー(県内書店)を行っている.やま読ブックフェアは,秋の読書週間に合わせて開催し,県内の図書館や書店が統一したテーマで本の魅力を発信している.やま読ラリーは,読者が,開催期間中に図書館1館で貸出,異なる3店舗の書店でそれぞれ税込み1,000以上購入でスタンプを押してもらうことができ,合計4つのスタンプを集めると,書店で景品(オリジナル甲州印伝しおり)をもらえる.景品は全店合計1,000枚で各書店への配布数が無くなり次第順次終了となる.</p><p>2.研究の目的</p><p> 「やまなし読書活動促進事業」は10年目を迎えた.令和元年度に第13回高橋松之助記念「文字・活字文化推進大賞」を受賞し,一定の評価を得ている.県のウェブサイトには事業概要は把握できるが参加状況,やま読ブックフェアのテーマの決め方,やま読ラリー等の状況は掲載していないことから,図書館と書店の在り方や図書館と書店の立地等を考える際に事例を整理することは有益であると考える.そこで本研究の目的は「やまなし読書活動促進事業」の特にやま読ブックフェアとやま読ラリーについて明らかにすることである.</p><p>3.研究方法</p><p> 2024年6月3日に山梨県立図書館,6月7日に山梨県教育庁生涯学習課に「やまなし読書活動促進事業」について質問紙調査の依頼を行った.7月2日に回答と参考資料を受領し,翌日に山梨県教育庁生涯学習課にインタビュー調査を行った.</p><p> 4.調査結果</p><p> 「やまなし読書活動促進事業」に参加した書店は,この事業で図書館や行政と一緒に取り組むことで図書館について知ることができた.他の書店と知り合うことができ,刺激になり頑張ろうと思った.自分の店舗だけでは何かを企画することはできないが,「やまなし読書活動促進事業」のイベントをお客さんに紹介することができ楽しんでもらえるようになったという.</p><p> 県として「やまなし読書活動促進事業」の課題は,事業に県民全体を巻き込んでいくため,読書・本に関わるあらゆる関係者がやま読に参加できるよう取り組みを広げることである.</p><p> やま読ブックフェアのテーマは,県内公共図書館関係者,やまなし読書活動促進事業実行委員・サポーター,各書店,大学サークルを中心に行った事前アンケート等を参考にし,担当がやまなし読書活動促進事業実行委員会で提案し,決めている.</p><p> やま読ラリーの令和5年度の参加図書館は44館,書店は24店舗だった.景品は,期間終盤に配布か完了した.景品が入っている袋に,任意で回答するアンケートのQRコードがあり,151名から回答を得ていた.回答者151名に限るが小学生未満から高齢者まで幅広く参加していた.回答者の居住地は甲府市が41.7%と最も多い.ラリーを知ったのは書店が70.2%と最も多く,スタンプカードの入手も書店が70.9%と最も多かった.</p><p> 5.考察</p><p> 「やまなし読書活動促進事業」が10年続いているひとつに実行委員会の構成員に特徴があると考える.県内の図書館や書店だけではなく,大学サークル,大手取次,東京都内の出版社等多様なメンバーが入っている.一方で,やま読ラリーのアンケートから参加者は,甲府市等,書店や図書館がある地域に偏っている可能性が推察される.</p><p> 6.今後の研究に向けての問題・課題</p><p> やま読ラリーの各図書館のスタンプの押印数や書店の売り上げの増減についてのデータは,実行委員会によると「読者が図書館や書店を「知の回遊」することで,それぞれの館・店の個性を感じ,大切な一冊との新たな出会いや,読書の楽しみを広げる機会となることを目的」としていることから集計は行っていない.よって,開催期間中の図書館と書店の人の流れについて把握する方法を考え分析することは,事業成果の確認と更なる発展に向けた検討が行える.これは,図書館と書店が共存した県民への読書環境を意識したまちづくりにつながると考える.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390301684514931456
  • DOI
    10.14866/ajg.2024a.0_37
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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