徳島県の明治期の地籍図に関する一考察

書誌事項

タイトル別名
  • A Study on the Cadastral Map of Meiji Era of Tokushima Prefecture

説明

<p>土地一筆ごとを描いた明治期の地籍図は,近代化に伴って景観が変化する前の様子を詳細に描いており,様々な分野で学術利用されている。その一方で,作られた種類や作成時期,地図の資料的性格などは大きな地域差を抱えており,地方別の基礎研究も重要である。徳島県では,比較的早い時期から明治期の地籍図に関心が向けられており,地租改正事業の主な変遷が示された。また,『吉野町史』では,板野郡の地籍簿が収録されており,地籍編製事業も実施されていたことが分かる。徳島県では羽山久男による近世の実測分間絵図の研究が重ねられており,徳島藩の絵師による測量技術が蓄積され,明治初期の土地測量と地図作成に引き継がれたこともうかがえる。</p><p> 明治期の徳島県文書は戦災の被害を免れ良好に残されている。そこで,本研究では,徳島県立文書館・徳島市役所・小松島市役所・徳島地方法務局の調査を基に,徳島県の明治期の地籍図の成立過程と資料的性格を考えたい。なお,大唐正秀の日本加除出版の2つの著作でも徳島県の地籍図が扱われた(『Q&A 筆界特定のための公図・旧土地台帳の知識』2013年,『筆界特定のための地籍編製地籍地図の読み方と知識』2021年)。しかし,資料の出典などが示されず,参考文献の引用なども適切でない部分がみられる。また,Q&Aの形式で2項対立的に結論を導こうとしており,明治期の地籍図の多様な事例に対応させるのに困難が伴う。制度変遷の扱いなど学術的な問題がみられるので,これらを参照せずに徳島県立文書館などの資料調査を行った。</p><p> 明治4年(1871)12月に徳島県が廃止され,阿波国と淡路島を管轄する名東県が設置された。また,明治6年2月に讃岐国が編入されたが,明治8年9月に香川県として分離された。翌9年8月には,阿波国は高知県に編入され,淡路国は兵庫県に編入され,明治13年3月に阿波国を領域とする徳島県が再設置された。このように複雑な変遷の中で地租改正が実施されたが,明治8年7月に「地租改正人民心得書」(名東県達158号)や「地引地図地番立方心得書」(同162号)が伝達された。測量方法は,当初は十字法を用いたが三斜法が導入され,間竿は6尺1分(1分は砂ずり)が使用された。調査に従事する村民総代に対して測量法や製図法などが指導されたが,適任者がいない場合は,測量師・算者・絵図師などが雇用された。官吏による確認の丈量時の改出率は約10%と他府県に比べて低く一定の成果が得られたようである(『徳島市史』p346)。</p><p> 明治9年8月の高知県編入後は,高知県として布達が伝達されたが,地図については徳島支庁が阿波国独自の布達を出した。高知県でも調査を行ったが,異なる性格の地租改正地引絵図が残されており,別の方法で実施されたと考えられる。字限図の縮尺は,明治9年頃の約1/600のものもあるが,明治11年7月の地租改正規則写(『上勝町誌』p190)で縮尺は1分2間(約1/1200),山林は1分10間(1/6000)と指示され,時期によって異なる地図が作られた。徳島県の地租改正は明治14年9月に終了した(明治14年県布達甲159号)。 </p><p> 明治15年8月の県布達乙119号で「地籍編製ノ義ニ付テハ明治八年二月舊名東縣ヨリ布達ノ次第モ有之所今般編製心得書及雛形共更ニ別冊ノ通相定候條至急調製進達可致」とあり,計67条が指示された。約1/6000の町村図と約1/600の字限図の雛形も残されており,県立文書館に寄贈された大字の文書にも明治16年~21年頃の地籍図や地籍簿の村控えがみられる。小松島市役所に対になる地図が残るので,提出図が役場に引き継がれたことが分かる。</p><p> 徳島市役所でも地籍編製地籍地図が現存するが,スキャニングした画像をカラープリントで閲覧する方法になっている。全国でも珍しい対応をしているが,法務局の旧公図が消失したので市役所の地籍編製地籍地図で復原したという。なお,徳島市役所では,地租改正地引絵図も残る。小型なので上記の約1/1200の縮尺に従ったと考えられる。明治19から21年の地押調査は,地租改正の成果の修正を目的とした。しかし,約1/600の縮尺が要求されたので地籍編製地籍地図が選択された。明治24年ごろの地籍簿もあるので,地籍編製事業と地押調査を組み合わせて土地台帳が編纂された。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390303697452833792
  • DOI
    10.14866/ajg.2025s.0_328
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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