書誌事項
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- New Investment for Theranostics in Europe
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説明
<p>日本政府は,放射性同位元素(RI)の医療応用に対する期待を強めており,2024年の経済財政運営と改革の基本方針にも反映されている.また,福島国際研究教育機構(F-REI)はRIをベースとした診断および治療薬開発プロジェクトを開始し,厚生労働省は治療用放射性医薬品の臨床および非臨床試験に関するガイドラインの草案を公表した.</p><p>一方,ヨーロッパでは2024年10月に3つの大規模なセラノスティクスプロジェクトが開始された.これらのプロジェクトは,欧州委員会のHorizon Europeプロジェクトおよび関連産業からの6000万ユーロ(約98億円)もの資金援助を受け,RI創薬における初の官民共同研究イニシアティブとなっている.医薬品開発に関しては,Horizon Europeの一環としてあるInnovative Health Initiative(IHI)が健康医療関連研究への資金提供において重要な役割を果たしている.IHIは,セラノスティクスに焦点を当てて,Thera4Care,Accelerate.EU,ILLUMINATEの3つのプロジェクトを指定した.Thera4Careは,セラノスティクスのエコシステムを確立し,欧州全域での利用拡大を目指している.Accelerate.EUは,膵臓がん,乳がん,脳腫瘍を対象に,アスタチン-211(211At)を用いた標的α線療法の開発と持続可能な生産ネットワークの確立を目指す.このプロジェクトでは,2028年までに第1相臨床試験を実施する計画である.ILLUMINATEは,前立腺がんの治療にルテチウム-177(177Lu)をベースとした治療法の最適化に焦点を当てながら,同位体の生産と供給網の改善に取り組むことになっている.</p><p>日本では,F-REIがスポンサーとなっているRI研究戦略があるが,これにはヨーロッパで見られるような産業界の積極的な参加や資金提供の仕組みがない.委託事業について研究者から企業・関係団体へ情報発信し,共同研究できるよう研究者自らによる環境整備も望まれる.日本におけるRIを用いたセラノスティクスの進歩には,臨床応用を促進し,国際的な連携を強化するために,産業界の関与,知識の普及,人材の育成が必要である.</p>
収録刊行物
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- 核医学
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核医学 62 (1), 23-31, 2025
一般社団法人 日本核医学会