新幹線駅エリアの「メディア化」が持つ地理学的な可能性と課題

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  • Geographical potential and issues of recreating Shinkansen stations area as media

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 郊外に立地する整備新幹線の駅の中には、都市政策上の位置付けが定まらないまま開発や利用が立ち後れ、市民に不満や批判が発生している事例がある。また、まちづくりにおける市民の評価軸に乗ること自体がなく、時間が経過するケースが少なくない。背景には、慢性化した不満と裏腹に、市民の関心全体が高まらなかったり、環境改善のイニシアティブを握る組織が定まっていなかったりする状況が存在する(櫛引、2018)。</p><p> 報告者らは、「駅のメディア化」、つまり、駅や周辺地域の話題を取り上げるメディアを創設するとともに、駅と周辺地域を「住民・新幹線利用者を結ぶ媒体(メディア)として再創造する取り組み」が、状況を進展させる契機となり得ると考え、2019年、その実践に乗り出した。本報告は、同年4月に東北新幹線・新青森駅(青森市)で始めた「ニュースレター」の作成、および、それに呼応する形で同年7月、北陸新幹線・上越妙高駅(新潟県上越市)で始まった検討を題材に、「駅のメディア化」の実践が持つ、地理学的な可能性と課題について考察する。</p><p></p><p>2.新青森(駅)ニュースレターの刊行</p><p> 報告者のうち櫛引は2019年度、青森学術文化振興財団から「新青森駅と周辺の情報発信を核とした新幹線駅活用および市民協働の場づくりの研究・実践事業」の採択を受け、ニュースレター作成に着手した。目的は、市民の間に批判や不満が強い新青森駅とその周辺の状況を、市民の協働の場づくりを通じて、改善する糸口をつくることである。</p><p> 具体的には、①新青森駅およびその周辺地域の情報を収録・発信するとともに、②駅や地域が抱える都市政策上の可能性や利便性改善などへの課題を取り上げ、③駅をめぐるさまざまな人の営みを伝えるとともに、④近隣の観光スポットを紹介する、という方向性を定め、A3用紙のニュースレター「はっしん! 新青森」を月1回程度、年度内に10回程度、刊行することとした。</p><p> 紙面づくりに際し、青森大学と高大連携協定を結んでいる青森県立青森西高校との協働体制づくりを目指した。同高は新青森駅から約700m西側の至近距離に立地し、生徒が通学でも同駅やJR奥羽線を使用する環境にある。2010年の東北新幹線全線開通を契機として、新青森駅での利用者の歓迎セレモニーや駅構内の飾り付けに協力するなど、JR東日本との協働体制を構築、10年目を迎えている。</p><p> ニュースレター作成・刊行に際しては、紙面を世に出すことにとどまらず、次のような展開を想定した。①駅や周辺地域に関する情報を整理し、発信することで、これらを総合的に俯瞰し、考察する基礎的な判断の枠組みと材料を整える、②駅の運営に関わる組織や周辺の住民の間に、駅について語らい、検討するインセンティブや契機をつくる、③地元の住民に加えて、駅利用者とさまざまな情報を共有することで、利便性の改善や地元の地域資源を再発見する契機をつくる、④地元の域内、地元と域外との間で情報や意識の循環をつくる、等である。</p><p> 2019年6月10日に創刊号を、7月10日に第2号を発行した。青森西高校のホームページにPDF版を掲載しているほか、Facebookページで紙面や取材に関する情報を発信、さらにInstagramアカウントも活用している。</p><p></p><p>3.上越妙高とのコラボ</p><p> 一方、平原は2016年、上越妙高駅前にコンテナ商店街「フルサット」を開設し、当初の1棟から5棟、さらに8棟へと経営規模を拡大してきた。</p><p> 同駅は直江津地区から約10km、高田地区から約5km離れ、フルサット開業まではほとんど駅前利用が進んでいなかった。フルサット開業が契機となる形でビジネスホテルなどの立地が進展し、また、「コンテナ商店街」という新業態が県内外から強く注目されるようになったにもかかわらず、肝心の地元では今なお、必ずしも適正な評価対象となっていない。</p><p> 開業3年を迎え、エリアマネジメントの新たな展開を模索していたところへ、櫛引によるニュースレター発行の取り組みを知り、これに呼応する形で、「駅とその周辺のメディア化」を模索することにした。皮切りに、7月18日にフルサットで「駅のメディア化」に関するセミナーを開催し、商業者や経済人、JR関係者、さらには市職員らを交えて意見交換を試みることになった。</p><p></p><p>4.ポイントと展望</p><p> 報告者らの関心事は、地理学的な観点からの地域ブランディングやエリアマネジメント、地域メディアづくりにある。さらに、大学生・高校生を地域活動の主体と位置付けての、高大連携による関心の掘り起こしや調査の体験、さらに住民・社会への広義のアウトリーチなどに及ぶ。一連の取り組みは緒に就いたばかりだが、市民団体やNPOとの連携が進み始めている。当日は、青森・上越両市におけるそれぞれの取り組み、および協働の進展、さらには上記のセミナーにおける議論等を報告する。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564227305735424
  • NII論文ID
    130007711035
  • DOI
    10.14866/ajg.2019a.0_80
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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