ダイナミクスによる情報処理――レザバー計算の最近の発展

書誌事項

タイトル別名
  • Information Processing through Dynamics――Recent Advances in Reservoir Computing
  • 人工知能と物理学 ダイナミクスによる情報処理 : レザバー計算の最近の発展
  • ジンコウ チノウ ト ブツリガク ダイナミクス ニ ヨル ジョウホウ ショリ : レザバー ケイサン ノ サイキン ノ ハッテン

この論文をさがす

抄録

<p>レザバー計算(reservoir computing)は,機械学習・情報処理手法の一つである.レザバー計算では,任意の大自由度力学系(レザバーと呼ばれる)を情報処理に活用する.入力をレザバーに与え,レザバーの力学系としての時間発展から目的の挙動を作り出す.具体的には,レザバーの状態の線形結合として出力を作り,これが望みの出力に近くなるように係数を最小二乗法などで調整(学習)する.レザバー計算は入力の時系列に依存する情報処理を実現できる.時系列の情報処理にはレザバー計算以外のリカレントニューラルネットワーク技術も使われるが,仕組みが簡便で学習も速いのがレザバー計算の特徴である.</p><p>近年ではレザバー部に現実の物理系を導入し,情報処理デバイスの一部として活用する物理レザバー計算(physical reservoir computing)が提案されている.この技術では,物理系自体のダイナミクスが計算資源として活用できるため,エネルギー効率の向上ならびに計算労力の削減が期待され,現在,各方面で種々の応用が進められており注目を集めている.例えば,ソフトロボットにおける応用では,やわらかい身体の多様なダイナミクスそれ自体がレザバーとして活用できることが示された.身体自体が情報処理デバイスとして活用できるため,将来的には外付けのPCをバイパスして,自身のダイナミクスで制御を実装できる可能性を持つ.また,この手法は,ダイナミクスをベースに計算を行うため,非ノイマン型の情報処理を実装できるフレームワークとして,現在世界的に着目され始めている.物理レザバー計算は機械学習・力学系・非線形物理学の要素が絡み合った概念となっており,この点を重視した数理の探求が必須である.</p><p>レザバー計算の性能はレザバーとして使う力学系の性質に依存する.直感的には,入力の情報をよく保存するレザバーが高い性能を達成すると考えられる.そこで,大自由度力学系(ここでは確率的ニューラルネットワーク)内部の情報の流れを最大化(リカレント情報量最大化;recurrent infomax)することで系にどのような情報処理能力が誘導されるかを我々は調べた.リカレント情報量最大化は神経系の多くの性質を説明できることが知られている.情報量最大化によって,短期記憶の性能は高まるが,非線形演算では顕著な性能向上は見られなかった.この結果は,短期記憶と非線形性にトレードオフがあるという一般的結果との関連から興味深い.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 74 (5), 306-313, 2019-05-05

    一般社団法人 日本物理学会

関連プロジェクト

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ